便益と独自性で考える「価値の四象限」
MZ:独自性がないと、価格競争に陥ってしまうのですね。
西口:そうですね。便益だけのプロダクトはコモディティと表せます。食品や飲料、日用品を思い浮かべていただくとわかりやすいですが、あるヒット商品が生まれてもすぐに模倣され、価格競争が激しくなっていく市場はたくさんあります。
MZ:独自性はあるけれど、便益がないプロダクトもあり得ますか?
西口:あることはありますが、便益(=何らかのメリット)がなければ買わないですよね。物珍しさから一度は買っても、継続購入はしないでしょう。
今のやり取りのように、価値になり得るかどうかは便益と独自性の有無によって以下の四象限の図で表すことができます。便益と独自性を兼ね備えたものが「価値」です。便益はあるが、独自性がないものが「コモディティ」。逆に便益がなく独自性のみだと「ギミック」、単に驚かす仕掛けのようなものです。そして両方ともないプロダクトは、誰にも何ももたらさない「資源破壊」といえます。

顧客の価値にならないことを追いかけていないか
MZ:独自性といっても、先ほどの「有効成分A」のような自社プロダクトだけの特徴を確立するのは難しそうです。
西口:確かに独自の有効成分のような要素は簡単には作れませんが、本質的には強い独自性と大きな便益を提供することを目指すべきだと思います。
ただし、便益と独自性は顧客の状況によって変わるので、性能や品質だけでなくもっと広い要素に目を向ける必要があります。登山をしていて水筒の水が切れてしまい、売店にミネラルウォーターが200円で売っていた時を考えてみましょう。この場合「のどを潤せる」ことが便益で、「それしか売っていない」ことが独自性になります。
MZ:もしそこで、友達がミネラルウォーターを分けてくれた場合はいかがでしょう?
西口:200円のミネラルウォーターの独自性は一瞬で消えますよね。また、そこから100メートル先の自販機に120円で売っていると知ったらどうでしょうか。さらに100メートル歩くというコストをかけて安い方を買うか、今200円で買うかは、その人がお金や労力をどう使いたいかによります。
価値に対して払うのはお金だけでなく、時間や労力、考える脳の余地なども該当します。そうした点も含めて、顧客の視点をよく理解することが大事です。

MZ:自分たちの顧客がどういう方でどんな対価を払ってくれるのか、よく考えないといけないのですね。
西口:その通りです。注意したいのは、社内で部署や役割が細分化されていると、知らず知らず顧客の価値にならないことを追いかけてしまうことです。KPI設定の問題も大きいですね。
現場や若手の方だと、その状況をすぐに変えるのは難しいかもしれませんが、自分の仕事が顧客にとっての価値にどうつながっているのかを常に考えてほしいです。