顧客に変わるプロセスを見つける「ナラティブ分析」
まずリサーチは、顧客が求人サービスに求める心理的な価値を突き止めることが目的でした。企業視点では掲載数といった機能的な価値しか見えず、ある種他社と同じことばかりになってしまいがちです。そのため、ユーザーへの定性インタビューでその心理を深く聞く“ナラティブ分析”を行いました。
たとえば、ある販売スタッフの方が転職をしたときのインタビューでは、「仕事探しを意識する前のライフスタイル」「仕事探しを意識した瞬間」「本格的に考えた理由」「利用したサービス」「具体的な活動」といったことを聞きました。転職はある日当然にしようとするものではなくて、日常のなかで蓄積されていた何かによって引き起こされるものです。そのため、現在の状況だけでなく、その過去を探り、変化したきっかけ、顧客に変わるプロセスを見つけられるように心がけました。

当然ですが、求職者の年齢や職種、働く場所によって、その心理的価値とカスタマージャーニーマップは異なります。そのため当時は、まずWebアンケートを使った定量調査で1,448名の回答を集め、その属性や回答に偏りのない150名を対象にナラティブ分析をしました。その結果をさらに整理することで、40種類のカスタマージャーニーマップが作成できました。これにより、多種多様な顧客の解像度が上がりましたね。
調査の質を上げる「テストの徹底」「バイアスの排除」
──こうした調査分析では担当者の力量が試されると思います。質を上げるためにどのような工夫がありましたか?
質問項目づくりにはとてもこだわりました。たとえば、「~に満足していますか?」という聞き方だと具体的な改善点が出てきづらいですが、「100点満点で何点ですか?」「減点の理由は?」と聞くと出てきやすくなるように、聞き方一つで回答の質は左右されます。

当社で行った工夫としては社内でのテストが挙げられます。社員に回答してもらうだけでなく、その項目一つひとつにどう思ったのかを教えてもらうなど、回答者視点の感情・感想を聞くワークは徹底しましたし、実施して良かったと思います。また、インタビューの感想についてうかがう活動はユーザーにも行っています。本音を引き出すための工夫は調査方法の観点で非常に重要ですね。
もう一つ、調査の工夫を挙げるなら、インタビュー対象者の選び方です。当社では多様性を重視したインタビューを心がけています。たとえば、事前のアンケートで「大変満足、満足、普通、不満、大変不満」という5段階の項目があったとすると、その5段階それぞれの回答者を網羅するようにインタビューするという考え方です。満足している人だけ、不満を持つ人だけを聞くといったように、何らかのバイアスがかかっていたら、意味のないデータになってしまいます。できるだけバイアスをなくし、かつ分母の大きな調査を行うことで、多様な視点を得られるようにしているのです。
──続いて、貴社が注力されてきたプロダクト改善についても教えていただけますか?
当社の活動を振り返ると、いわゆるマーケティングの4Pのなかで以前はプロモーションを重視していました。Cookieレスの環境ではまさにこのプロモーションが難しくなります。しかし、現在のユーザーの満足度を上げ、将来のユーザーにも満足いただけるようにしていけば、プロモーションによるユーザー集客だけに頼らずとも、バリュープロポジションを広げられるはずです。当社では、先述のような調査、ナラティブ分析とともに、4Pのうちのプロダクトの改善にも注力してきました。

一方、プロダクトの改善をするためにエンジニアに依頼をすると、工数、時間のコストがかかってしまいます。そのため、マーケティング組織がエンジニアに頼らず顧客の変化に応じてサービスを変える力を手に入れること、マーケターの早期戦略化の実現を目指しました。