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増収増益を重ねるアサヒビール、社長の松山一雄氏は「マーケティングと経営」をどう考えるのか?


失敗から学んできたこと

西口:そうだったのですね。その後、ブランドや顧客への向き合い方は変わりましたか?

松山:はい。以降は、使う人の気持ちを理解しようとすごく努力した覚えがあります。自分の戦略に酔わないように、常に生の顧客の声に基づいて考えるようにしました。4P戦略のようなフレームワークも、ケーススタディも、当事者として見られなければリアリティが見えません。当時はそれに気づけなかったんですね。

 失敗して撤退していった商品は、あまり皆さんの記憶に残らないので目立ちませんが、アサヒビールに入ってからも全部が全部、成功したわけではありません。ただ、失敗を恐れないことも大切なのだと、今では思うようになりました。

西口:成功事例と失敗事例の差は、何だと思われますか?

松山:私が関わってきた例でいうと、うまくいくのは社内がワクワクしていた時だったかなと思います。自己満足ではなく、「本当にこれが実現できたらいいよね」と皆が盛り上がり、感情移入できた時。たとえば、マルエフは当初「昔の焼き直しではうまくいかないだろう」という反対意見が多くありましたが、最終的には「この商品は売れそうだ」という盛り上がりが社内でとても大きくなった。結果、大きな反響がありました。

 対して失敗する時は、感情移入というより戦略やビジネスのストーリーが優位になっているように思います。先ほどお話ししたP&Gで最初に失敗した時も、戦略やストーリーは、とてもきれいに描けていたんです。

 チームや組織が「こっちだ!」とある方向に動き出したらなかなか止められません。うちが早くやらなければ、競合に水をあけられるという焦りも出てきます。止められる立場だったのに、そうできなかったと反省することもあります。

アサヒビール経営トップとしてのマーケティングへの関わり方

西口:では、マーケティングと経営の関係をどう考えておられますか?

松山:先ほどの「マーケティングとは顧客の創造」と近いですが、ドラッガーさんの定義に共感する形で、「経営の目的とは顧客の創造である」と考えています。経営とはマーケティングも含めて商売を丸ごと、機能に分けずに顧客を創造していくことであり、マーケティングは本来それを主導すべきです。

 しかし現状では、商品企画やリサーチ、コミュニケーションなど機能で分けられていることが多いですよね。営業に対する販売サポートが典型ですが、それは本来のマーケティングではありません。顧客を創造するという観点で、バリューチェーンも全部見る必要があります。

西口:松山さんが入られた頃のアサヒビールは、どうだったのでしょう?

松山:組織としては全然違っていました。製造と販売が伝統的に強い会社なので、マーケティングへの期待値は、いいCMやパッケージを作るというようなことでした。製販がしっかりしている強みはそのままに、マーケティングはもっとおもしろくできると思いましたね。

西口:経営トップになられた今、マーケティングにはどう関わっているのでしょう?

松山:業務自体は部門長に任せています。数年一緒に仕事をしましたし、たくさん話をしてきて、同じ感覚があると思っています。

 ただ、今でも経営会議などでは、私から消費者の話をします。研究所にも定期的に行き、どういう顧客を想定してつくっているのか、など話を聞いています。具体性がなければ、実開発を先に進めないような仕組みも設けました。

 どんな顧客がその商品を熱狂的に入手したいと思うのか、具体的に1人の実話(N1)を解像度高く語れないなら、一見よさそうな案でも承認しないようにしています。定量データしか出てこなかったら、「それって誰が言っているの?」「誰と誰がその話をしていたの?」と聞きますね。

西口:社長がそういう質問をされる場面は、あまり見たことがありません。

松山:些細なことですが、本当にそれでお客様の心が動くのならば、どういう人の心がどう動いたかを関係者の皆に説明してほしいと言っています。先の失敗例では、理論的には正しいが実際にはどうなのか、本当に買って下さるのはどんなお客様なのか、という追究が足りなかったのだと思います。

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安く、早く、賢い失敗を組織の「是」とする

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/04/02 18:21 https://markezine.jp/article/detail/45203

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