人が美しくなるほど地球も美しくなる社会を目指して
──北原さんは、全社の中でマーケティング組織が果たすべき役割について、どのように考えていらっしゃいますか?
マーケターは何かの専門家ではなく、オーケストラの指揮者のような存在だと思います。マーケターが研究開発やクリエイティブ開発、得意先への営業を直接担うわけではありません。マーケターは各部門のプロフェッショナルが担う役割を束ねて導き、価値を最大化してお客様に届けるまでをリードする存在です。例えるなら、オーケストラの指揮者と言えます。音楽を奏でるのは全社のプロフェッショナルたちです。楽譜がどんなに素晴らしくても、演奏者や奏法で届く音楽は変わります。それをリードするのが指揮者の役割です。つまり、資生堂がお客様に提供できる価値もマーケティングによって変わると考えています。

──マーケターの役割を踏まえ、人材の育成や組織の強化に向けて取り組まれていることがあれば教えてください。
マーケティング組織の強化については試行錯誤を繰り返していますが、社内でマーケティングアカデミーを開講しています。世界中のどの国・エリアにおいても成果を出すために、優れた能力を発揮できるマーケターの育成を行い、個人の能力向上を会社全体の成長につなげることを目指しています。
アカデミーではマーケターとしての経験が浅い方向けのベーシック講座から、アシスタントブランドマネージャークラスに対する効果的なIMCの作り方、ブランドファイナンスのマネジメント方法などをトータルで学ぶことができます。ほかにも過去の商品開発事例からハードルの乗り越え方を学ぶセッションや、アーティストをはじめ社外の方にお越しいただいてセンスを磨くセッションもあります。
開講から10年が経ち、ベーシック講座の卒業生は600人を超えました。今では卒業生が教える側に回り、受講生にフィードバックを伝える機会もあります。30代前半でブランドマネージャーを務めるメンバーも現れるなど、若手リーダー層の育成につながっています。
──最後に、北原さんが掲げている目標や、今後の展望についてお聞かせください。
経済価値と社会価値の両立に力を入れたいです。資生堂は社名が中国の古典『易経』に由来することもあり、創業当時から地球や環境との共存共栄を大切にしています。商品を売るだけでなく「その先の社会をどう良くしていくか」を考えることが求められているのです。日本マーケティング協会によって刷新されたマーケティングの定義にも通じますよね。「人の見た目や人生を彩るためにある化粧品で、地球の彩りを失わせてはいけない」と強く思います。人が美しくなればなるほど、地球も美しくなる社会を実現したいです。
社会を動かすことは、日本で長きにわたり生活者と向き合ってきた資生堂だからこそできることだと思います。同じ志を持つ他の企業とタッグを組むという選択肢もありますし、競争し合うだけではない世界をつくっていきたいです。