データや技術を価値へと変換するにはアートの発想が必要
2つ目の戦略は「新市場創造マーケティング」です。プロダクトだけでなくサービス、そしてコミュニケーションなどにも当てはまることで、のちほど具体例を挙げて説明します。3つ目の「様々な顧客接点に対応する」は、デジタル化により多様化したジャーニーに応えることでもあります。
4つ目の「アート&サイエンス」は、資生堂のDNAとして受け継がれてきたものです。昨今データの重要性は一層増していますが、その裏にある人の心理を想像することが大切だと考えています。データが動く裏では、人の心が必ず動いているからです。
また、データは過去と現在のファクトのみを表すものです。先を読み新たな価値を生み出すためにはクリエイティブな発想力や美意識、センスのようなものが必要になります。データや資生堂が持つ技術(サイエンス)をお客様に価値として届け、感動体験に昇華させるには、アートの発想をあわせ持つことが重要です。
──マーケティング戦略の大枠を踏まえ、近年特に力を入れてきたマーケティング活動を教えてください。
先ほど2つ目のアクションとして挙げた新市場創造マーケティングに関連して、スキンケア技術の強みを活かしたファンデーションを多数発売しました。中でも「SHISEIDO」と「MAQuillAGE」から発売したリキッドファンデーションは大変好調で、SNSでも「まるで色付き美容液」などと話題になっています。コロナ禍を経て外に出る機会が増えた今でも、レスファンデの心地良い生活やスキンケア重視の日々から戻りたくないというお客様のインサイトを捉え、“ファンデ美容液”という新しい市場を創造した形です。
また、コミュニケーションイノベーションの具体例として「SHISEIDO MEN」の取り組みが挙げられます。俳優の松嶋菜々子さんと反町隆史さん夫妻を起用したクリエイティブが話題を呼びました。スキンケアにハードルを感じている男性は少なくありません。「近しいパートナーから薦められると、男性もスキンケアに前向きになれる」というインサイトを捉えてコミュニケーションを変えた結果、新製品を出していないにもかかわらず、約2倍の売上を記録しました。ターゲットインサイトを捉えて、価値伝達の切り口を変えるコミュニケーションイノベーションは今後も強化していきます。