テクノロジーは人間に代替し得るのか?
このように、シルク・ドゥ・ソレイユはテクノロジーを活用して顧客体験をアップデートし続けることで、「競争優位性を確保している」のだとダニエル氏は語る。
「もし、企業として『業界の最先端であり続けたい』と考えるのであれば、常に新しいテクノロジーに目を光らせておくことが非常に大切です。既存のビジネスとテクノロジーを掛け合わせることが新しい体験につながるためです」(ダニエル氏)
故に、ダニエル氏は、人間とテクノロジーが生み出す新たな創造性に注目をしているのだという。

続いてマイルズ氏は、“テクノロジーの普及によるリスク”についても言及。テクノロジーが人間のポジションを代替してしまう可能性をダニエル氏に問いかけた。
ダニエル氏はエンターテインメント業界において、テクノロジーによる体験が将来的に人間が行うパフォーマンスと置き換わっていくとは考えておらず、人間が行うライブエンターテインメントが廃れることは決してないと考えているという。この理由をダニエル氏は次のように語る。
「テクノロジーの発展により、没入型の体験をはじめとして新たなタイプの体験が次々に生まれ、人気となっていくことでしょう。しかし、本物の人間が行う限界を超えたパフォーマンスに触れることはやはり多くの人の感動につながるんです。たとえテクノロジーを駆使した体験が普及していったとしても、多くの人が今後も“生身の人間”が行うライブパフォーマンスを求めてくれるでしょう」(ダニエル氏)
テクノロジー×人間で見えてきた新たな体験
一方でテクノロジーを理解・活用し、人間のパフォーマンスと積極的に掛け合わせることでこれまで見ることのできなかった新たな体験をより多くのファンに届けることも可能になるのだとダニエル氏は語る。
テクノロジーと人間を掛け合わせたパフォーマンスとして、ダニエル氏は「Michael Jackson: One」の講演を例に挙げた。今は亡きMichael Jackson(マイケル・ジャクソン)氏の曲とダンサーたちの表現力、テクノロジーの掛け合わせにより、マイケル氏の世界観を表現しているのだという。

ダニエル氏は次のようにセッションを締めくくった。
「ここまで話してきたように、工夫次第では、人間とテクノロジーは共存し、一緒に仕事をすることができます。これは、私たちのようなエンターテインメント業界に限らず、どの業界でも同様のことが言えるでしょう。生成AIは、知的財産に与える影響などがいまだ不明確なので、現状ではインスピレーションを得る程度にとどめて活用しています。しかし、この新たなテクノロジーがどのように進化していくのかには常に注視していきたいと考えています」(ダニエル氏)