ブランドづくりの目的は「儲けること」
田部:この連載は、事業成長に真に貢献するマーケティングのあり方や、それを展開していくためにはどうすれば良いのかを考えていくものです。第7回のゲストには、ダイキンの片山義丈さんをお迎えしました。
田部:片山さんといえば、著書『実務家ブランド論』(宣伝会議)の中で「実務25年目にして自分のブランドづくりの間違いに気付いた」と書かれていますよね。間違いについて詳しくお聞かせいただけますか?
片山:ブランドづくりの目的は、儲けることだと気付きました。資本主義社会にいる以上、営利企業は儲けを追求し続ける必要があるからです。
片山:「ブランド=生活者との約束」という考え方があります。以前の私は、約束を作ったり、かっこいいイメージを作り上げたりすることに意識が向いていました。言葉の表面的な意味しか捉えず、定義を目的化していたんですね。
25年目にして、それらの取り組みが何の儲けにもつながっていないことに気付きました。もちろん、商品やサービスによってはかっこいいイメージが儲けにつながることもあります。しかし、ダイキンの業務用エアコンを選ぶ人は「かっこいい」を重視するわけではありません。そのため、どれほどかっこいい広告を打ったり、約束を考えたりしても、儲けにはつながらなかったんです。
間違いに気づいてからは「ブランド=妄想」であり、お客様の頭の中で自然に想起される、その企業や商品に対するイメージだと考えるようになりました。
田部:少し視点を変えてみると「ブランド=検索されること」とも言えると思います。「〇〇といえばA社」と紐づけて、検索という行動に出てもらう取り組みがブランディングなのではないかと。
片山:おっしゃるとおりだと思います。ただ、ダイキンの場合は生活者が広告を見たからといって、すぐに検索することはほとんどないでしょう。エアコンの買い替えスパンは平均13年と言われています。「エアコンといえばダイキン」「空気に関わることならダイキン」を伝え続けることにより、どこかのタイミングで買い替えの必要が生じたときに、ダイキンのエアコンを思い浮かべてもらえるようにすることが重要なのです。
営業活動も立派なブランディング
田部:企業はどのフェーズからブランドづくりを始めれば良いとお考ですか? ある一定の企業規模に至ってからが良いでしょうか。
片山:最初から取り組むべきだと考えます。私が考えるブランディングは「知ってもらうこと」です。商品やサービスを知ってもらわなければ、売れることはありません。たとえば水を買おうとコンビニに入ったとしましょう。知っている水と知らない水があって、どちらも同じ値段だった場合、多くの人は知っている水のほうを買うのではないでしょうか。
広告で社名や商品名をアピールするだけでも良いんです。かっこいい広告を作る必要はありません。生活者がエアコンの購入を検討する際に、頭の中の「エアコン」の引き出しに「ダイキン」が入っていれば良いんです。それがブランディングだと思います。
もちろん広告だけが手段ではありません。創業時は広告を出稿するリソースがないケースもあるでしょう。営業担当者が顧客のもとに毎日通って、商品の説明を一生懸命することも立派なブランドづくりです。「その商品ならあの会社が販売していたな」と思い出してもらえますから。