共働きの子育て世帯が抱える新たなニーズ
今回紹介する書籍は『進化するイマドキ家族のニーズをつかむ 共働き・共育て家族マーケティング』。著者は、ジェイアール東日本企画の生活者研究ユニットであるイマドキファミリー研究所です。
同研究所では、2014年に発足して以来、「フルタイム共働き子育て家族=イマドキファミリー」を対象に研究を行い、イマドキファミリーの実態やニーズを捉え、企業と家族との最適なコミュニケーションの発見・創造を行ってきました。
本書では、同研究所がこれまで行ってきた調査研究で明らかにしたイマドキファミリーのニーズや行動についてデータを基に紹介しています。
同研究所が総務省の「労働力特別調査」「労働力調査」より作成した資料によると、「子育て期(末子が17歳以下)における世帯」での共働き率は年々増加しており、2022年時点で約74.2%。
こうしたイマドキファミリーが増えるとともに、彼らがどのような悩みやニーズ、価値観を持って生活しているかを把握することも企業にとって重要になります。しかし現状では、彼らがどのような悩みやニーズ、価値観を持って子育てを行っているかを把握できておらず、「適切なコミュニケーションがわからない」といった悩みを持つ担当者の方は少なくないでしょう。
では、同研究所が調査を基に導き出した「イマドキファミリーの特徴、ニーズ」はどういったものなのでしょうか?
「あえて考えない」ことで家事に思考のリソースをさかない
本書では、同研究所が調査データを用いながら、イマドキファミリーの特徴の特徴を説明しています。たとえば、母親が持つ特徴の一つとして、「あえて考えないようにしている」ことを挙げ、その要因を次のデータから説明しています。
「子ども関連のスケジュール・内容・情報について把握する」ことを「夫婦二人で同じくらいやっている」と答えた共働きママは2割程度で、「自分が行うことが多い」が78%でした(「子育て家族に関する調査」2021年度)(p.113)
このように、イマドキファミリーの母親には、育児に関する日々の情報を入手・整理し、考えて判断するなどの「隠れた家事」による負担が大きいといえます。
重要なタスクに思考のリソースを残しておけるように、そのほかの家事についてはなるべく「考えない」ことで思考の余力を残しておきたいというニーズの存在を説明しているのです。
「○○不要」の視点で母親のニーズを捉えた商品作り
では、こうした特性を持つイマドキファミリーにどのようなアプローチが考えられるのでしょうか? 本書では企業側が持つべき視点を具体的な事例から紹介しています。
たとえば、先述の「考えない」ことで余力を残したい母親に対しては、「○○不要」の価値を提供していく必要があると説明しています。実際にこのニーズをうまく捉えた事例として紹介しているのが、2022年に花王が行った食器用洗剤「キュキュット」のテレビCM「キュキュット 難しく考えない編」です。
コップなどの食器を洗ってから油で汚れたフライパンを最後に洗うなどの順番を「考えずに洗うのだ!」と訴求しています。(p.116)
同商品の機能的な価値だけなく、それによって「洗い物のやり方や手順を考えることや不慣れな人に伝えることが不要」な点から心理的な負担を下げている点を同研究所は評価。ここから、自社の商品でも「○○不要の文脈で価値を提供できるものがないか」という視点でコミュニケーションの発想を広げていくことが大切だと述べているのです。
このように本書では、調査データや事例を基にイマドキファミリーが持つ新たなニーズや価値観、企業が価値を提供するために必要な視点を具体的に紹介しています。
子育て家族のニーズを知りたい方、彼らをターゲットとする商品やサービスのコミュニケーション戦略やプロモーション施策に悩んでいる方は、本書を参考にしてみてはいかがでしょうか。