選択肢が広がる今こそ目利きを
──位置情報×ターゲティングについてはいかがでしょうか?
アドテク企業時代の反省を込めて、私が過去に書いた記事を紹介します。約10年前、位置情報ターゲティングの有効性を解説する目的で「朝に保育園を訪れ、昼にスーパーマーケットで買い物をして、午後にスターバックスで過ごしている人はママ属性だから、ママに向けた広告を配信できる」と書いていたのです。当時は誰も咎めませんでしたが、今読み返すと強い違和感を覚えます。
ユーザーが「気持ち悪い」と感じない、のぞき見にならない位置情報ターゲティングの在り方が、この10年で業界において模索されてきました。現在は位置情報データ活用の業界団体「LBMA(Location Based Marketing)」がガイドラインを策定するなど、活用の“型”が揃っているため、それに沿って運用すればプライバシーに配慮した位置情報ターゲティングも実行可能です。
──法整備やプラットフォーマーの方針転換、そしてテクノロジーの進化にともない、ターゲティングを取り巻く環境やターゲティングの在りようは今後も変化していくと思います。今後の予測と、読者に向けたメッセージをお願いします。
デジタル領域において、マーケターに求められる能力が変わってきています。大きくは次の3点です。
- 前述のとおり各プラットフォーマーに閉じたテクノロジーが進化する中、それぞれのテクノロジーを使いこなす能力が求められます。
- マーケティングの個別最適化が進む一方で、全体感を把握するスキルも求められます。言い換えるなら、バラバラのデータを俯瞰して捉える能力です。顧客調査やMMMなどが、その手段として該当するでしょう。
- 広告領域からCRM領域までを貫く、統合的な体験設計の能力が求められます。手法偏重に陥らないこと、そしてユーザーのプライバシーに配慮することも大切です。
足元では1st Partyデータの強化を主流としつつ、収集した1st Partyデータを広告配信に活用する場合は、データクリーンルームなどの仕組みを通じて各種プラットフォーマーにデータを渡すことになります。その動きがパーソナルデータの第三者提供にあたるため、まずはこのことを自覚した上でプライバシーポリシー周りを改定することが広告主のスタートラインだと思います。
新たなソリューションが出てくる中で、特定のソリューションを採用する際に「なぜそのソリューションを活用しているのか」「自社ではどのような考えのもと、このソリューションを良いと判断したのか」を明言できるかどうかがポイントではないでしょうか。社会の動きや自社の置かれた環境によって、ベストな選択は変わります。広告主が確固たる方針を持ち、自社の選択理由を説明できれば、生活者側も不安を感じることがありません。たとえ高い効果が見込めそうな新技術でも「怪しそう」と思うなら選ばないことも大切です。選択肢が広がっている今だからこそ“目利き”になることをおすすめします。