NHK受信料制度を廃止するビジネススキーム
さて、では、本題に戻って、NHK受信料制度をどうやって廃止するのか? どうやって無償化するのか? 私としては、「データ配当金」の思想、データポータビリティ権、そして、「運用バッファ(20%)」を使って、「NHK受信料総額(約6,240億円)」を捻出できると考えている(参照)。いや、捻出できるように、前回の記事で書いた「個人情報有効活用法(仮称)」を制定する。そして「デジタル公共事業」として国がバックアップしていく。
「データ配当金」とは、米国大手IT企業が個人データを利活用して収益を上げるなら、その収益の一部をデータ権のある個人に配当金として戻すべきだという考えだ。データ配当金が法制度化された国はまだないと思うが、日本の場合、楽天ポイントなどポイントプログラムが非常に人気である。たとえば、Microsoftには、「Microsoft Rewards」というポイントプログラムがあって、AmazonやAppleのギフトカード、楽天ポイントなどと交換できるようになっている。
これは、ある意味では、データ配当金的な性格があって、米国大手IT企業の収益の一部を、日本の個人に還元するプログラムなのだ。だったら、この「Microsoft Rewards」からNHK受信料に交換(支払い)できるように制度化すればいい。そうすれば、Microsoftの原資を使ってNHK受信料を賄える。同様に、楽天ポイントやPayPayポイント、Dポイント、Vポイントなどからも、NHK受信料を支払うことができるようにすればいい。
直近のデータで日本の広告費は、「通年で7兆3,167億円」だ(参照:電通「2023年 日本の広告費」)。さきに話した「運用バッファ(20%)」が使えるとすれば、約1.4兆円のバッファがある。もちろん、すべての日本の広告費を1st Party Dataのプラットフォーマーで配信する訳ではない。すくなくとも今は違うが、それでも、データ配当金の思想に基づいて、仮に、10%(約7,000億円)相当分をポイントバックするなら、「NHK受信料総額(約6,240億円)」をカバーできる。
わたしの理想は、GAFAMに対してデータ配当金を義務付け、かつ、データポータビリティ権を行使してGAFAMとNHKなどのデータを活用することだ。「統合パーソナル情報」の質と量が優れているほど、収益力があがる。民放局など日本のマスメディアのビジネスを支えながら、GAFAMの原資で実質的に「NHK受信料総額(約6,240億円)」を捻出するのが理想だ。収益構造やお金の流れなどは、いくつかのパターンがあり得るが、GAFAMの日本市場の売上規模と日本の広告市場の売上規模を前提にするとき、NHK受信料を実質的に賄うことは可能だ。

そのために、まず、「個人情報有効活用法」を法制度化して、NHKと米国大手IT企業の1st Party Dataを活用する。「統合パーソナル情報」を構築し、民放局などマスメディアが自社ウェブサイト/アプリで、ターゲティング精度の高い広告配信ができるようにする。将来的には、「Apple Intelligence」のようにパーソナルな文脈で情報を処理できるようにしたい。
図表3の消費者の位置にある「パーソナルエージェント」は、Personal AI機能である。「統合パーソナル情報」をこの「パーソナルエージェント」が学習し、よりパーソナルな情報提供・広告配信ができるように設計していく。
この「統合パーソナル情報」は、1st Party Dataの質・量ともに、AmazonよりもMicrosoftよりも優れたものになる。NHKとGAFAMのデータを統合するのだから、当然だ。ターゲティング精度も高く、広告のコンバージョン効果も高く、認知などブランディング効果も高くなるはずだ。1st Party Dataの質・量が優れていればいるほど、利益率が高くなりやすい。つまり、儲かりやすくなるので、ポイント還元(データ配当金)も余裕が見込める。
広告配信のための「システム費」(配信システムとデータ/ID費用)も安くなる。データポータビリティ権を行使ししているだけなので、そもそも、「データ/ID費」は必要ない。「配信システム」の費用は、1st Party Dataを持つ企業の自社開発配信システムを使うことで、追加的な限界費用をほぼゼロにできるはず。「統合パーソナル情報」の質・量が優れていればいるほど、スケールメリットが出せる。GAFAMとうまく組めば、民放局やその他のマスメディア企業にとっては、コストゼロにできるだろう。
国は「個人情報有効活用法」を法制度化する費用、NHKと米国IT企業の1st Party Dataを活用して「統合パーソナル情報」を構築する費用などがかかる。これを「デジタル公共事業費」として予算化する。初期投資とメンテナンス、継続的な追加開発などだが、「通年で7兆3,167億円」ある日本の広告費の規模を考えると、充分に回収され得る。かつ、日本の広告市場の拡大に大きく貢献するはずだ。
おそらく、放送局は、競合他社に対して、自社の1st Party Dataを共有したくない。NHKや米国大手IT企業のデータは使いたいが、たとえば、フジテレビは日本テレビには自社の視聴ログデータをみせたくないはずだ。そのため、私の提案としては、フジサンケイグループなど、グループ単位でキー局とローカル局、大手新聞社と地方新聞社などがデータ連携する(これを「Data Sphere」と呼んでいる)ことで、各Data Sphereごとに、1st Party Dataプラットフォーマーとしてネットワークを作っていけばいいと考えている。
「そんなにうまくいくかなぁ」「利益が出るのか?」という声が読者の中から聞こえてきそうだ。次回以降に、より具体的に論じてみたい。