2024年改訂「11の欲望」、何がどう変わった?
1.「さみしい人とは思われたくない欲望」→「わたしの役割でつながる欲望」
人との接触はおろか直接会うことすら制限されていたコロナ禍では、この「つながり&共感」という欲望を満たすことは容易ではありませんでした。この欲望を渦巻くように「孤独だと思われたくない」「さみしい人だと周りに気づかれたくない」といった気持ちが人々の中に色濃く存在していたと考えます。
しかし、この1年ほどで状況が開放的になっていく中で、「1人でいるのは恥ずかしいことではない」という思想が定着してきたようです。だからこそ、身近な仲間内でも「自分の役割や意味」を考えるようになったのでしょう。
具体的なイメージ:この欲望に含まれる欲求項目
・人と出会いたい、友だちや仲間をつくりたい
・仲良くなりたい、つながりを大切にしたい
・みんなで盛り上がりたい、共感したい
調査内の自由回答例
60代女性 ミステリー映画
「同じものを好きな人たちが集まって、みんなで同じ時に笑ったり、考えたりして、同じ気分を体験したくて行くことにしました」
50代女性 人気レストランでのランチ
「数年ぶりに食事する友人に楽しく満足してもらいたくて、予約することに成功したので自分でも満足しています。ノンストップで食し、残さず完食していたので美味しく感じてくれたと思います」
2.「マイワールドを追求したい欲望」→「腕を磨いたから、腕試し欲望」
「探求&創造」に関する人々の欲望を「マイワールドを追求したい」と名付けたのは、先述のとおりコロナ禍でした。当時、コロナ禍で家にこもって自分の趣味の世界を追求していたところから、自分が煮詰めていたことを誰かと共有して手応えを感じたい、と感じるようになった人が増えてきたように感じます。
具体的なイメージ:この欲望に含まれる欲求項目
・挑戦したい、成長したい
・知りたい、学びたい、探求したい
・達成感を味わいたい
・何かを創りたい
・感動したい
調査内の自由回答例
30代男性 釣竿
「船釣りしたくて、竿が無く購入した。その日がくるのが待ち遠しい」
40代女性 ゴルフのラウンドレッスン
「初めて体験しゴルフのコーチからいろいろ教えてもらった」
3.「資本集中型浪費欲望」→「資本集中型消費欲望」
3つ目、「資本集中型浪費」と名付けていた欲望を「資本集中型消費」へとしました。
前回の2021年発表時、「興奮&享楽」を満たす欲望には、一つのことに集中しながらも、ちょっとした無駄遣いや後先を考えずに浪費したいという欲求が強く見られました。こちらも時代を捉えた変化があったと見ています。
具体的なイメージ:この欲望に含まれる欲求項目
・興奮したい
・刺激を受けたい
・セクシーな体験をしたい
・後先考えず今を楽しみたい
本当は派手にパーッと発散して楽しみたいところだけれど、円安、物価高、利上げなど、現実はそうもいかない状況。コレと決めた世界で、気の置けない仲間と盛り上がるために、お金も体力も普段は温存しておき、ここぞという時に少し放出して自己実現する――そんな消費者心理が表れていました。
調査内の自由回答例
70代男性 上高地への旅行
「長い間撮影に行きたいと思っていたが、なかなか訪問の機会に恵まれなかった。その機会がきて、仲間と計画して行くことができた。」
4.「炎上しないための欲望」→「肝心な時こそ気配を消したい欲望」
保身&安全の欲求因子であるこの欲望も、「とにかく炎上したくない」という保守的な欲望から、常に「みんな」のほうに所属することで「安心と安全を確保したい」と考える欲望に変化しました。
すぐ炎上する時代だから、悪目立ちは禁物。上手く立ち回ることで安心していたいという消費者の心が感じられます。一方で、安心するために、いつも少し緊張しているという矛盾を抱えているのがこの欲望の特徴です。
具体的なイメージ:この欲望に含まれる欲求項目
・悪目立ちしたくない・嫌われないよう、批判されないようにしたい
・周りにあわせたい・はみ出したくない
・危険な目にあうこと、失敗すること、損することを避けたい
調査内の自由回答例
20代男性 マウンテンパーカー
「いろいろな人のレビューを確認して購入。活動に支障がないようなデザインで使いやすそうだと思った」
40代男性 投資関連の書籍
「投資に興味が出てきて、より良い投資方法を勉強している。そのときに必ず名前が出てくる本なので、投資の古典として読んでみた。」
5.「あえて愛を確認したい欲望」→「愛がなくちゃね欲望」
コロナ禍は、あえて愛を確認して「誰かとの繋がりを確かめたい、感動したい」という欲望が顕著に見られましたが、「それをきちんと形に表すことが私の人生を豊かにしてくれる」と考える人が増えてきました。逆に、愛のない人がちょっと気に触わる時もあるなど、愛情に関する欲望も、対象の広がりを見せています。
具体的なイメージ:この欲望に含まれる欲求項目
・誰かを愛したい、愛情を注ぎたい
・愛されたい・守ってもらいたい
調査内の自由回答例
60代女性 炊飯器
「主人が亡くなって、ひとりサイズの炊飯器に買い換えようと探していて、ちょうど良いのが見つかった。自分サイズで気持ちが明るくなった。」
50代男性 フルーツケーキ
「最近、初めてのデートで、二人で初めていちじくのフルーツケーキを食べて、二人共いちじくを好きになった。これからあちこち美味しいもの食べに行くが、このお店は一生の思い出」
6.「集め方を集めていく欲望」→「あっ、コレわたしっぽい欲望」
モノを集めながらその背景やストーリーを集めていくことに重きを置いていた欲望から、「少し変わった個性も含めた自己演出をして周りから注目されたい、楽しみたい」という欲望に変化しました。流行はおさえつつも、ユニークな個性にこだわる。周りから一目とまでは言わないけれど、0.5目おかれたい。そしてそんな自分の目で選ぶ、後先考えない衝動買いも楽しむ。そういった消費意欲がこの欲望から感じられます。
「モノ・コトなどの思い出や物語を自分自身の記録としてためたい」という欲望に、「没頭したい」「後先を考えずに楽しみたい」という欲求が追加されて、以下の4つの欲求項目がこの欲望を構成するようになりました。
具体的なイメージ:この欲望に含まれる欲求項目
・モノを集めたい・きれいに保存したい
・モノや財産を所有したい・増やしたい
・はまりたい・没頭したい
・後先を考えず今を楽しみたい
調査内の自由回答例
50代女性 ヴィガンタスの鳥笛(リトアニアの工芸品)
「リトアニアには私の好きなかわいいものがいっぱいある。旅してみたい」
11の欲望は、誰もが持ち合わせているもの
ここまで、「11の欲望」のうち6つの欲望の変化とその要因を、事例を交えてご紹介してきました。
過去の連載でも言及している点ではありますが、「11の欲望」は1人が1種類持っている、というものではなく、誰もがこの11の欲望を大小織り交ぜながら持ち合わせており、場面や状況に応じて無意識に自分の中で強弱をつけているものであると我々は考えています。
前回と今回の「11の欲望」においては、新型コロナウイルスという社会にも人の欲望にも大きく影響を与える事象の狭間で大きな変化を見せた可能性があり、定点観測の重要性を感じました。DDDでは今後も定期的な観測を続けていきます。
