※本記事は、2024年8月刊行の『MarkeZine』(雑誌)104号に掲載したものです
社会価値創出につながる事業推進の在り方とは?
─ 自社の資産を“人材”と定義しアクセンチュアが注力する企業市民活動 事業成長と両輪にする仕組みを聞く
─ LIFULL HOME'S「FRIENDLY DOOR」に学ぶ、社会課題を事業に落とし込むヒント
─ ユーザー・小売・メーカー、誰にとっても便利なリユースを目指すLoopに聞くパートナーシップの重要性
─ 社会課題への関心が高いリスナーに自然な文脈で自社の活動を届ける J-WAVEの番組スポンサード
─ 単純なSDGs訴求で生活者は動かない、CSV視点で考える「届く情報発信」(本記事)
─ 「パーパス買い」はある?博報堂買物研究所が解説する生活者の購買意識
SDGsブームが下火、これからが正念場
──菅原さんが代表を務めるパブリックグッドはBCorp認証を取得されているPR会社です。そのお立場から様々な知見を伺えればと思うのですが、まずPRにおいて、環境への取り組みやサステナビリティといった観点での取り組みに変化は出ているのでしょうか?
ご質問にお答えする前に、まず日本広報学会が策定した広報(※1)の最新定義をご紹介します。
広報の定義組織や個人が、目的達成や課題解決のために、多様なステークホルダーとの双方向コミュニケーションによって、社会的に望ましい関係を構築・維持する経営機能である。
前提として、PRには「顧客や社会とともに価値を創造」していく視点や、「持続可能な社会の実現」を目指す視座が元来含まれています。それを踏まえた上でも、PRにおけるサステナビリティなどへの取り組みは変化していると思います。
全国紙でSDGsというキーワードが報道された件数の推移を1年単位で整理したところ、2019年を境に件数が爆発的に増加していました。2021年に流行語大賞にノミネートされ、2022年には2,562件と、2017年の報道件数359件の約7倍に達しています。しかし、このブームも2022年をピークに下火傾向です。具体的には、SDGsをキーワードにした今年の報道は調査時点で762件(※2)。このままのペースでは2020年頃の水準に戻る可能性もあります。
PRでもこの動きに合わせてSDGsをテーマにした情報発信が増えた一方で、実態がともなっていない=ウォッシュと捉えられてもおかしくない情報も混じっていたと感じます。真偽はともかく、ブームに乗っているだけで良かったのです。今後、それが通用しなくなる。これから、正念場を迎えるのではないかと予想しています。
──ウォッシュではなく、さらにCSRでもなく、CSVを意識したときにPRの観点で事業会社が意識すべきことは何ですか?
結論から言うと、PRとは事業や経営に対して戦略提言できる機能であるという認識を持つ必要があると思います。
興味深いデータをご紹介しましょう。生活者が「企業やブランドによる社会の様々な課題を解決する取り組みに関する情報」を、どのような情報源から得ているかというと、パブリシティ領域(テレビの企画特集や新聞の記事など)で取得する割合が最も多く、続いてオウンドメディア領域(企業サイトや公式SNSアカウントなど)。相対的にペイドメディア領域(テレビCM、Web広告など)が低いことがわかりました(※3)。
生活者は企業の社会価値に関する情報をパブリシティから得ている。この結果は、この種の情報は第三者性や信憑性が求められている現れかと思います。自社のひとりよがりな発信ではなく、事業活動としてファクトに立脚しているか、正しく伝えるためにはどうすべきかといった戦略策定は本来、広報・PRが担うものです。先ほどご紹介した広報の定義にもあるとおり、広報とは経営機能なのです。
ですから、事業責任者や経営者は戦略会議などの場にPR担当者の席を設けていただくとよいのではないかと考えています。また、外部からフィードバックを得て自社の施策に活かす観点でも、PRの存在は欠かせません。PRはメディアなどの他社と金銭的な取引が発生せず、社外からフラットにフィードバックをもらえる立場です。自社の情報発信が外部からどう見えているかを把握し、経営やブランドの戦略に提言する、それをもとに企業の戦略・戦術を変えていく。このサイクルを目指していただきたいですね。
──PR支援の視点で事業会社に対しての提言はありますか?
短期的な視点と中長期的な視点、両方を持つことが重要だと思います。最近は短期的なベネフィットを優先しがちな傾向があるように感じます。会社から求められる以上、仕方ない側面もありますが、短期偏重で発生するデメリットは意識したほうがよいかと思います。
世の中には数字で測れるものと、測れないものが存在します。CTRやCPOなど短期目標の数値は、はっきり見えてしまうので「0.1%をどうやって上げるんだ」といった議論になりがちです。そこで「でも、0.1%上げるための施策案って顧客育成の観点ではマイナスですよね」という声が出るといい。
短期視点と中長期視点を行ったり来たりしながら議論することが大切かと思います。
そのためには、短期で収益を出すことと、中長期でブランドを作っていくこと、両方を議論できるチームを作る必要があります。具体的には研究開発、営業、マーケティング、PR・広報宣伝といった、様々な立場の人が意見を出し合う形が理想ですね。
企業の取り組みを生活者の価値に変換する
──PR活動における共益性の高さやサステナビリティとは、どのようなものだとお考えですか?
そもそも、マクロで見ると公益性が高くサステナブルであろうとする機運は高まっていますが、公益性の高低やサステナビリティの有無に関わらずPR活動は可能です。どうあるかは各社の企業判断です。
BCorp企業は公益性が高くサステナブルであることを決め、実現している企業の集合体です。当社が認証を取得した理由は、その経営判断への賛同であり、そのような企業と同じ共通言語・視座・課題感で企業や事業の在り方を議論するためです。
実際にBCorpのコミュニティに参画して感じているのは、企業努力とそれを受け取る一般生活者の意識のギャップです。自社で「パーパスに共感しているブランドがあるか」を調べたところ、全体の78.4%が「共感しているブランドはない」と回答しています(※3)。生活者全体を見ると、まだまだ感度は低いでしょう。
しかし、見方を変えれば回答者全体の4人に1人が「共感しているブランドがある」状態とも言えます。2021年頃から各社が一斉に策定に乗り出した「パーパス」が、短期間で消費者に浸透してきている一方で、もっと効果を発揮できる伸びしろがあるという調査結果だと考えられます。
また、『マーケティングカンファレンス2023』では、意識調査ではエシカル商品を「買いたい」という結果が得られるものの、実際に企業がローンチすると販売に苦戦するメカニズムに言及した発表がありました。研究によると、「このコーヒー豆は貧困問題や児童労働を解決する」といったメッセージよりも、「優れた労働環境だからこそ生まれる高品質なコーヒー豆」といったメッセージのほうが購買を促進できるそうです(※4)。
企業がサステナビリティを意識することは大切ですが、それを単純に伝えるのではなく、生活者にとっての価値に転換する必要があるのです。BCorp企業のサステナビリティに関する取り組みは非常に高レベルです。しかし、生活者にはいまひとつ届いていない。BCorp認証を取得している当社は、こういったギャップの存在を認識し、双方の違いを認め合い、議論を通じて高次の結論に達するためのサポートをしていきたいです。
※1 ここでの「広報」は広報、パブリック・リレーションズ、コーポレート・コミュニケーションを同じ意味を持つ概念として捉えたもの
※2 「全国紙での『SDGs』報道件数推移」
調査プラットフォーム:ELネット
対象媒体:全国紙(朝日、読売、毎日、産経、日経、東京)
記事中に「SDGs」が入っている総記事件数
調査日:2024年6月27日/調査主体:パブリックグッド※3 「ブランド・エンゲージメントとメディア利用に関する調査」
調査プラットフォーム:Freeasy
対象媒体:1都3県に住む20代〜60代男女995名
調査期間:2024年5月2日〜5月13日/調査主体:パブリックグッド