※本記事は、2024年8月刊行の『MarkeZine』(雑誌)104号に掲載したものです
社会価値創出につながる事業推進の在り方とは?
─ 自社の資産を“人材”と定義しアクセンチュアが注力する企業市民活動 事業成長と両輪にする仕組みを聞く
─ LIFULL HOME'S「FRIENDLY DOOR」に学ぶ、社会課題を事業に落とし込むヒント(本記事)
─ ユーザー・小売・メーカー、誰にとっても便利なリユースを目指すLoopに聞くパートナーシップの重要性
─ 社会課題への関心が高いリスナーに自然な文脈で自社の活動を届ける J-WAVEの番組スポンサード
─ 単純なSDGs訴求で生活者は動かない、CSV視点で考える「届く情報発信」
─ 「パーパス買い」はある?博報堂買物研究所が解説する生活者の購買意識
“住宅弱者”問題の解決に多面的に取り組む「FRIENDLY DOOR」
──「FRIENDLY DOOR」とはどのようなサービスなのでしょうか?
LIFULL HOME'S「FRIENDLY DOOR」は、高齢者、外国籍の方、LGBTQの方、生活保護利用者、シングルマザー・ファザー、被災者、障がい者といった住まい探しに困難を抱えている、いわゆる“住宅弱者”と呼ばれる方々に寄り添ってくれる不動産会社を探せるサービスです。直近では、不動産会社に加え、住宅弱者にフレンドリーな物件一覧の公開も始めました。
また、自社メディアにて、住宅弱者に関する問題を発信する記事の作成も行っています。多面的に住宅弱者の課題に取り組んでいるのがLIFULL HOME'Sの「FRIENDLY DOOR」事業です。
──FRIENDLY DOORは御社の新規事業提案制度から生まれた事業だそうですね。なぜ、こちらの事業を提案されたのでしょうか?
私自身が外国籍であることもあり、自分と家族の経験から「属性によって家が探せない」問題を解決したいと思い、LIFULL(当時「ネクスト」)に入社しました。最終面接でビジネスプランを提案して内定をもらったという経緯があります。
入社後再度挑戦した2018年に新規事業提案制度「SWITCH」で優秀賞をもらったことをきっかけに、本格的に事業化することになりました。
失敗を乗り越え現在のビジネスモデルに
──業界にとってもまったく新しい事業を作るにあたって、困難もあったのではないでしょうか?
そうですね。実は、受賞後最初に作ったサービスで、一度失敗しています。当時のサービスは外国籍のユーザーのみを対象として、人が介在して外国語でサポートしながら不動産会社を紹介するというビジネスモデルでした。ユーザーは獲得できましたが、人件費が高くつき、結果としてリターンが低くなってしまっていました。これではビジネスとして成り立たないと判断してリプランニングすることになりました。
そのころちょうどNPO法人と連携して、生活困窮者の方の住まい探しをサポートする社内有志の活動に取り組んでいたことで、この課題を解決するヒントを得ました。まず「住まい探しに困っているのは外国籍の方だけではない」ということ。そこで、生活保護利用者や高齢者など、対象範囲を広げることに決めました。
さらに、そのNPOの代表の方に「どうやったら生活保護利用者に対応してくれる不動産会社を見つけられるの?」と聞かれて、ハッとしました。そのNPOでは、それまで物件を管理している不動産会社に電話をかけ、対象者に物件を紹介してもらえるか問い合わせていましたが、20件電話をかけてようやく1件OKがもらえるという状況でした。「初めから対応してくれる不動産会社のリストがあったらいいのに」という要望を聞き、「可視化すればいいんだ」と気が付きました。
該当の不動産会社を可視化すれば人を介さずとも「問い合わせ」モデルとなり、これはLIFULL HOME'Sのビジネスモデルそのものです。そこで住宅弱者のカテゴリーごとのフレンドリーな不動産会社のリストを作り、そこにメールや電話の問い合わせボタンを追加して運用することにしました。
FRIENDLY DOORのWebサイトには「LGBTQフレンドリー」や「外国籍フレンドリー」などカテゴリーごとの不動産会社が表示されますが、不動産会社側からはFRIENDLY DOORを使ったユーザーからの問い合わせであることはわかりません。わかってしまうと、住宅弱者であることを勝手に公開してしまうことになるからです。もちろん不動産会社側に発生する料金体系もLIFULL HOME'Sのユーザーと一律です。
スタート時、社内からは「生活困窮者などの住宅弱者は成約率が低いのでは」「問い合わせの料金を低くする・無料にすることも考えては」といった意見も挙がりました。しかし、私はそれは違う、住宅弱者の方は、住まい探しに困っているからこそきちんと提案したら契約してくれるはずだと考えていました。