社会課題解決は「新しい市場を作る」こと
──FRIENDLY DOORのローンチから約4年半が経ち、反響の変化などはありますか?
2019年のローンチ時は“住宅弱者”の社会課題自体が知られておらず、検索してもほとんどヒットしませんでした。今は認知度も上がり、知り合いからも「住まい探しで困っている人がいるんだけど」といった相談を受けることも 多くなりました。広報チームと連携して、メディアを通して社会課題の「視点」を社会や不動産業界に発信できたことはサービスを作っていく上で良かったなと思います。
実は、不動産・住宅情報サービスLIFULL HOME'Sの中でもFRIENDLY DOORの不動産会社への問い合わせ率は2〜3倍ほど高いんです。それだけユーザーのニーズがあることは、数字からも明らかです。
また、不動産会社にとってもSDGsの取り組みの一環として、積極的に載せたいという意向を聞きます。2024年6月現在で不動産会社の掲載は約5,800店舗まで到達していますが、目の前の目標として6,000店舗を目指しています。最近は競合他社も住宅弱者向けの取り組みを開始し、業界全体にポジティブな動きが生まれています。
──今後FRIENDLY DOORを通じて提供したい価値など、展望をお聞かせください。
6月にLINEなどで個別相談ができる「FRIENDLY DOORサポートデスク」を開設しました。Webサイトでの問い合わせだけでなく、一人ひとりが抱えている個別具体の困りごとに対応することで「安心の住まい探し」という価値を提供したいと思っています。ただ、以前のビジネスモデルで失敗した反省を活かして、基本的なことはAIで相談できる仕組みと、スタッフによる対応を組み合わせて運営していきます。
また、最近はひとり親や生活困窮者向けに物件を提供する「ソーシャル大家さん」が増えています。入居先の選択肢が広がっていますので、不動産会社の先にいる物件オーナーの巻き込みも加速していきたいと考えています。
──最後に、社会課題の解決につながる事業の立ち上げや推進を模索するMarkeZine読者に、アドバイスをお願いします。
社会課題解決の事業は、「ソーシャルリターン」と「ファイナンシャルリターン」の両方を見なければならず、難しいことも多いです。一方で、社会課題解決は「新しい市場を作る」ことでもあります。新しい市場を作ることができれば、これまでの競争戦略のように4Pの優位性を争ったり、市場を奪いあったりする必要はありません。たとえばフェムテックやシニア向けのサービスなどと同じように、困っている人にパーソナライズして新しい市場を作っていくほうがその社会課題の解決にもつながります。
また社会課題の解決は、企業としてのサステナビリティの推進、ブランディングや採用の視点でも評価され、投資家にも注目される部分です。短期的な売上に終始せず非財務情報としてのリターンを見た上で、長期的に事業を評価、運営することが重要ではないでしょうか。