※本記事は、2024年9月刊行の『MarkeZine』(雑誌)105号に掲載したものです
【特集】Update:BtoBマーケティングの進化を追う
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─ 代理店販売は「営業」ではなく「マーケティング」である。BtoB企業が今こそ注力すべき「PRM」とは
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─ RevOpsを名前だけで理解していないか?ソフトバンクのレベニューオペレーション室が重視していること(本記事)
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「BtoB事業は個人競技でなく集団競技」
──はじめに、ソフトバンクが展開されている法人事業や組織体制についてお聞かせください。
山田:弊社の法人部門では、法人や自治体向けに、音声・通信インフラ環境の整備、セキュリティ強化やデジタルマーケティング支援に関するものなど、様々なソリューションを提供しています。通信・インターネット領域を基盤にしながら、テクノロジーを活用した新領域にもビジネスを拡大してきた形です。
法人部門の組織体制は営業やカスタマーサクセス、マーケティング部門があるなど、他のBtoB企業によく見られる構造だと思います。ですが、いわゆる事業部制ではありません。マーケティング部門は特定の事業のみではなく、全方位、幅広い事業に対応しています。
営業部門は、お客様の企業規模によって組織が分かれており、それぞれの顧客層に合わせたコミュニケーションを行っています。マーケティング部門においても、大企業向けの戦略と中小企業向けの戦略が存在します。ただし、これらは別々の組織として分かれて活動しているわけではなく、大きくはマーケティング組織内で一貫して行われています。
──ソフトバンクは2023年10月にレベニューオペレーション室を立ち上げられました。RevOpsを導入した経緯をお聞かせください。
山田:私は2019年にソフトバンクに入社後、マーケティング本部でBtoBマーケティングの全般的な取り組み方を変革する業務に携わっていたのですが、徐々にマーケティング部門だけの改革では限界があると感じるようになりました。マーケティングは単独で機能するものではなく、営業や製品開発、カスタマーサクセスなど、他部門との連携が不可欠です。
そのため、マーケティング部門のみのパフォーマンス向上を目指すよりも、他部門も含めた改革が必要ではないかという議論が生まれました。そこで、マーケティング以外の部門との対話の機会を徐々に増やし、実質的にはマーケティング以外の領域とも連携する機会が増えていきました。
2023年に立ち上げたレベニューオペレーション室では、マーケティングだけでなく、BtoB事業全体の様々なビジネスプロセスやそれを支えるシステム、さらにはそれらから生成されるデータを総合的に扱っています。
──マーケティング部門のみの最適化では不十分と考えたとのことですが、具体的にどのような課題があったのでしょうか。
山田:BtoB事業におけるお客様体験の創出は、個人競技ではなく集団競技のようなものです。BtoC事業の場合、お客様との接点は比較的シンプルで、店頭陳列やテレビCM、広告などを通じて成立します。ある意味では、主にモノと情報によるコミュニケーションで成り立っていると言えるでしょう。
一方、BtoB事業では、お客様との直接的なコミュニケーションが一層重要になります。たとえば、営業担当者が顧客企業を直接訪問したり、電話やメールでやり取りをしたりと、様々なコミュニケーション手段が用いられます。依然として1対1に近い形式のコミュニケーションがとられていると言えます。
また、ソフトバンクに限らないと思いますが、BtoB事業は契約が成立したら終わりではありません。お客様から「新たに10人の従業員を雇用したので、追加で携帯電話を提供してほしい」「新しいオフィス拠点にネットワーク回線を引きたい」というような依頼もあります。お客様のビジネスの変化に応じて、継続的なサービス提供や提案が必要となるのです。
このような特性から、BtoB事業における顧客体験の創出には、より複雑で多面的なアプローチが求められます。マーケティング、営業、カスタマーサクセスなど、個別の部門や機能だけでは不十分であり、各部門が連携し、細部にわたる要素を適切に組み合わせることが必要と考えました。