「調味料の会社」から「個人の価値に合った健康実現を目指す会社」へ
人口減少が進んでいる現在の日本社会において、企業が新規顧客獲得に偏重した成長戦略を継続するのは今後ますます厳しくなっていくだろう。限られた市場における一人ひとりの生涯顧客化という将来を見据え、若者との間に良好な関係を築くことが求められている。しかし、これまで若年層との接点を作れていなかったミツカンにとってそれは容易なことではなかった。このように話すのは、Mizkan Holdingsで執行役員 CRM本部長を務める林太郎氏だ。同社では、「やがて、いのちに変わるもの」というタグラインを掲げ、各家庭の健康を調味料によるサポートを目指している。
まず林氏は食品業界の現状として「消費者の食事スタイルの変化」を紹介した。近年、すでにできあがった食品を購入して一人で食事を行う人の割合が非常に高くなっている。日経MJが2024年8月に行った調査によると、調理済み食品をよく使う人の割合は料理を作ることが好きな人の数を上回る結果に。加えて、2050年には国内の44%が単身世帯となる上に、単身世帯のうちの半分が65歳以上となると考えられている。つまり、家族で同じ時間に同じ食卓を囲み食事をするスタイルが定番ではなくなり、ますます食事のパーソナル化が進むのだ。
このような状況のため、当然食品メーカーとしては、こうした食事スタイルの多様化に応じた企業活動が必要になる。そこでミツカンでは、これまで多くの人にイメージとして持たれていた「家族全員で一緒に食べる調味料の会社」から「多様化に応じて個人の価値に合った健康実現を目指す会社」を目指し戦略を転換。レトルト食品やワッフル、ラーメンなど調味料以外の多様な商品の展開を進めてきたと林氏は語る。だが、商品ラインアップを増やしただけでは、多様化した社会に対応できたとは言えない。そこでミツカンでは大きく二つのマーケティング戦略を展開してきた。
一つは、消費者一人ひとりを明確に捉えるための既存顧客との「つながり」を重視したコミュニケーション。もう一つは、新たな顧客との接点を持つことによる多様な消費者に「拡張」するアプローチの展開だ。
自社メディアをユーザーが「自ら集う場所」に
一つ目の戦略である既存顧客とのつながり強化に向けて、同社では「自社メディアの改造」に着手。元々ミツカンには自社のホームページ・コールセンター・SNS・ミツカンミュージアムなどの様々なメディアを通じたアクセスがあり、年間数百万ものトラフィックが存在していた。そこで同社では、「自社メディアに訪問してくれたユーザーが立ち止まってくれる仕組みづくり」を目指した。
「わざわざ自社のメディアに訪れ、会社と接点を持ってくださるお客様は私たちにとって非常に貴重な存在です。そこで、お客様が「情報を見る場所」から「自ら集う場所」に自社メディアを変えていきました」(林氏)
では、一体どのようにすればユーザーが集まりたいと感じる“価値のあるメディア”となるのだろうか?