50超のブランドを展開するTSIホールディングスならではの2つの課題
2011年設立のアパレル企業であるTSIホールディングスは、子会社化やグループ再編などを経て、2021年より株式会社TSIとして事業運営を開始。現在はNANO universeやNATURAL BEAUTY BASIC、HUFなど幅広い年代、シーンに対応したブランドを展開している。
セッションの前半、TSIグループで中核を成すTSIでブランド横断のデータ活用、マーケティングオートメーション(MA)の導入・活用を推進する片岡氏より、TSIの事業とKARTEも含めたデータ活用の全体設計について紹介された。
片岡氏によると、データ活用を推進する過程でいくつかの課題が顕在化し、まずはデータの統合に取り組んだという。
「データ活用における課題は大きく2つ。1つはブランドごとにデータがバラバラだったこと。各ブランドに最適なオムニチャネル展開を推進してきた結果、ブランドごとにデータが蓄積され、ブランド横断の活用ができない状態でした。もう1つは、購買と行動のデータがバラバラという課題でした。各ブランドでオンラインとオフラインの購買情報は
統合していたものの、行動データが紐づけられていない状態だったのです」(片岡氏)
この2つの課題を解決すべく、TSIではデータ連携とデータ活用に関するソリューション導入・活用を始めた。データ連携に関しては、Treasure Data CDPを導入し、TSIが展開するブランドの購買データやWebサイト/アプリの行動データ、広告接触ログなどのデータを統合。ブランド横断でもデータが活用できる土台を作った。
一方データ活用に関しては、Treasure Data CDPとKARTEを連携。KARTEが持つさまざまな機能を駆使して、データドリブンにメールやLINE、Web接客、アプリプッシュを行っている。片岡氏はKARTEについて「KARTEはマルチチャネルの施策が展開しやすい点において重宝している」と評価した。
商品に関する行動を蓄積しKARTE Messageでスピーディーなアプローチを実現
次に話したのは、片岡氏と同じ部署でMAとKARTEの運用業務にあたっている大脇氏だ。同氏は運用者の視点で、どのようにKARTEでCXを向上してきたかを語った。
まず紹介されたのは、KARTEの中でもメールやLINE、アプリプッシュなどマルチチャネルのパーソナライズを効果的・効率的に実現する「KARTE Message」の使用事例。KARTE Messageの導入後、マーケティングオートメーション施策経由の売上目標達成率は131%になるなど、CDP内のデータを有効活用したコミュニケーションの最適化に貢献しているという。また、定量的な実績だけでなく、定性面でも導入のメリットが2つあったという。
「1点目は企画から実装までスピーディーにできるようになったことです。これはサポート体制が手厚いこと、管理画面の操作が容易であることが要因だと考えています。また、KARTEで解析した行動データを活用することで、ユーザーの行動に基づいた新たなシナリオが実装できる点も大きなメリットでした」(大脇氏)
では、KARTE Messeageを活用してどのような施策を展開したのか。この疑問の答えとして、大脇氏は2つの施策事例を紹介。まず紹介されたのは閲覧コーディネートアイテムを駆使したシナリオだ。
このシナリオでは、ユーザーが閲覧したコーディネートに紐づく商品の価格や在庫に変動があった場合、メール・プッシュ通知・LINEのどれかで通知を行う。プッシュ通知に関しては、KARTE MessageとKARTE Webの機能を組み合わせることで、通知を開くと該当のコーディネートや商品がお知らせされる仕組みになっている。
次に紹介されたのは、「カゴ落ち」「ブラウザ放棄」を起点としたシナリオ。このシナリオでは、カートに追加したもののWebサイトから離脱したユーザーに対し、約2時間後にリマインドを行う。
TSIでは、以前から似た取り組みを行っていたが、当時導入していたツールで参照できたのは前日までのデータだったという。これがKARTEの導入により「当日中にすぐアプローチできるようになった」と大脇氏は話した。
購入後もサイトを訪問したくなる、CXの作り方
次にTSIでWebサイトの体験改善を担当する嘉手川氏が、KARTEによるWeb接客施策を紹介した。
TSIではKARTEの活用を通じて「ユーザーが商品を購入後もWebサイトを訪問したくなるコミュニケーション」を目指しているという。
たとえば、商品閲覧データを活用したレコメンドメッセージを配信。また、購入後には購入した商品情報を用いて、関連するコーディネートをKARTEでポップアップ表示させるなど、購入後も興味を持ってもらえる情報を発信している。
他にもWebサイトではユーザーが思わず買いたくなるさまざまな工夫が行われている。お気に入り登録情報を利用した施策では、KARTEで取得しているユーザーの商品情報を活用し、各商品がどれだけのユーザーにお気に入りされているか、その総数を表示。「一目で人気の商品であると伝えることが可能となり、一定の成果を上げた」と嘉手川氏は話した。
また、ユーザーのカート情報を利用した施策では、再訪問時にユーザーに「以前カートに追加したが購入しなかった商品」についてお知らせした。この結果、購入リフトアップ率が85.2%増加するなど、ユーザーの欲しかった商品の告知に成功している。
「紹介した事例以外にも、さまざまな施策を次々と実施し検証してきた」と嘉手川氏。約5ヵ月で25本の施策を提案し、効果に合わせて継続の有無、表示内容の調整、セグメントの調整を行ってきたという。これだけの施策が行えたのも、大脇氏が話していた手厚いサポート体制やわかりやすい管理画面があってこそといえる。
複数ブランドを持つ企業のデータ活用に必要なこと
続けて、嘉手川氏はブランド横断での取り組みについても触れた。
KARTEを導入した当初、多くのブランドを持つTSIでは2つの課題があった。1つ目の課題は、ブランドごとにWebサイトの管理者がいるため、KARTEに関する理解度が人によって異なっていたこと。これにより、実施される施策の本数にブランド間で差が生じていた。
2つ目の課題は、実施される施策のほとんどがポップアップ表示に偏っており、その表示数も多かったことでユーザー体験を損ない、接客が最適化されていなかったこと。これも、KARTEに対する理解が進んでいないことが原因で起きていた。
そこで嘉手川氏は、KARTEの理解浸透を目的とした施策を3つの段階に分けて進めていったという。
「まずKARTEを導入している8サイトの施策から上手くいったものを資料化し、他サイトの担当者に共有しました。次の段階で行ったのは、プレイドさん協力のもと実施した隔週での定例ミーティングです。これにより、課題に対してKARTEでできること、疑問を解消しました。そして、最終段階では、ハンズオン形式でKARTEの施策設計を行う社内勉強会を開催しました」(嘉手川氏)
これらの施策により各サイトの新規施策実施のハードルが下がり、施策の本数は前年同月比で3倍に増加したという。
片岡氏はここまで紹介した事例を踏まえ、今後の展望を以下のように語った。
「我々は現在、チャネルやツールごとに打っていた施策を統合し、一貫性のある顧客体験を生み出すという取り組みを行っています。Treasure Data CDPとKARTEの機能を上手く組み合わせて、お客様に軸足を置いたアプローチをしていきたいです」(片岡氏)
ブランド横断の施策に役立った機能とサービス
TSIの事例が一通り紹介された後、プレイドの中野氏はTSIの3名に質問を投げた。最初の質問は「ブランドを横断した施策を展開するために、社内で活用を推進したポイントはあるか?」というもの。この問いに対して嘉手川氏は「KARTEのエレメントビルダー(直感的な操作で接客施策が設定できる機能)が使いやすいこと」「PLAID ALPHA(伴走でKARTEの活用を支援するサービス)が優れていること」の2つを各サイトの担当者に伝えたという。
また仮説検証の進め方について中野氏が質問すると、片岡氏は「プレイドさんより共有いただいた考え方で、PDCAサイクルでいうPではなくDを最初に持ってくるという意識の変化が大きかった」と回答し、施策の実施スピードの重要性を唱えた。
加えてKARTEにはA/Bテスト機能、各ページ・セグメントでどの程度効果があったか管理画面上で確認できる機能があることもPDCAの高速化に役立ったという。
TSIも高く評価する、PLAID ALPHAとは?
質疑応答の後、中野氏は嘉手川氏からも高い評価を受けたPLAID ALPHAについて紹介。PLAID ALPHAはCX変革をサポートするプロフェッショナルサービスで、コンサルティング、インテグレーション、グロースの3ステップに分け、KARTEの導入各社が困っている部分をプレイド社員が伴走で支援する。
TSIはシステム計画策定から導入の推進・管理をサポートするインテグレーション、運用のPDCAサイクルの高速化、実装のテクニカルサポートなどを行うグロースに関して支援を受けているという。
ソリューションの提供だけでなく、伴走支援を行う理由について、中野氏は次のように語った。
「私たちは各社様の事業戦略を実行に落とし込んでいくためにKARTEが役立つと考えています。しかし、戦略設計のできる人材がいない、運用を回すリソースがないなど、KARTEだけで解決できないさまざまな課題があります。私たちはそういった状況の企業様に向けてPLAID ALPHAを提供しているのです」(中野氏)
中野氏は「今回はアパレル業界での活用事例でしたが、KARTEはさまざまな業界で活用いただけるサービスです。業界問わずご興味がありましたら、ぜひお声がけください」と話し、セッションを締め括った。