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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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【特集】進むAI活用、その影響とは?

最初から完璧を目指さない ハイテクなイメージをあえて遠ざけた東急のAIコンシェルジュ

膨大なトーク履歴の分析に苦労

──リリース後の反響や影響をお聞かせください。

 リリースから1年以上が経ち、1万や2万では利かない数のトークが発生しています。AIの精度に対するネガティブなフィードバックは、今まで一度も頂戴していません。元々3.0からスタートしたChatGPTも、現在は4oまでバージョンを上げ、非常に賢くなっています。この点は我々というより、AI開発企業の尽力によるところが大きいです。

 旅先こんしぇるじゅの利用には会員登録(無料)が必要なため、会員登録のCVRが上がりました。それだけでなく、TsugiTsugiのWebサイトや会員用ページのPVと来訪率も上がり、エンゲージメントの向上にも一役買っているようです。個人情報を紐付けていないため、正確な利用率は計測できかねますが、毎月ユーザー数以上のトークが発生していることから、一定数の方に触れて楽しんでいただいていると予想します。

──なぜ個人情報を紐づけていないのでしょうか?

 個人情報を紐づける場合、高いセキュリティ基準を満たす必要があります。1.5ヵ月先の報道公開に間に合わせるためには、基準のクリアと会社からのゴーサインを待てなかったためです。

──リリース後に苦労したことはありますか?

 膨大な量のトーク履歴を分析するのが非常に大変でした。対AIの質問ということもあり、説明を省略してぶつ切りの単語を並べたようなものも多々あります。それらをChatGPTが「どう理解し、そのアウトプットに至ったのか」は、人間の私が見てもわかりません。そこで、トーク履歴を分析するためのAIをChatGPTで新たに開発しました。旅先こんしぇるじゅと同じ脳を持つAIにトーク履歴を入力し、質問を受けて立てた仮説を抽出できるようにしたのです。

──分析結果はユーザーのニーズ把握やサービス改善に役立っていますか?

 間違いなく役立っています。最も多いリクエストは「ここから●時間以内で行けるところ」「半径●km圏内の同心円状にあるところ」などの、移動に関する条件です。気に入ったホテルを見つけても、そこまでの経路を検索するために、わざわざ別タブでマップを開くのは手間ですよね。そこでAI検索エンジン「PerplexityAI」を導入し、クローリングを通じて宿泊施設までの経路や周辺の観光情報、最新のイベントなどを示す機能を準備しています。

ミニマムスタートが成功の鍵

──川元さん自身は、AIに関する最新情報や活用事例をどのように収集し、理解を深めていますか?

 基本的な知識の習得には、やはり書籍が有効です。『生成AI真の勝者』(日経BP)は、LLMの種類や生成系AIの歴史、半導体の文脈などを体系的に学べました。技術トレンドは、技術者との情報交換や米国の掲示板「Hacker News」などを通じて追っています。

 TsugiTsugiは自分が責任者を務めるサービスです。そのため、外部の技術者のアイデアだけで進めるわけにはいきません。技術の細かい部分は理解できなくても「ここまでなら費用をかけずに実現できそう」などの感覚は養えると思います。

──旅先こんしぇるじゅの展望をお聞かせください。

 提案の精度と情報量をさらに高めたいです。旅行はエモーショナルなイベントですから「一定の情報さえ集まればそこに行くか」というと、そんなことはありません。人によって琴線に触れる情報は異なるため、情報量を増やして深掘った追加情報を提示し、様々な角度の質問にレスポンスできるよう機能を強化しているところです。

──最後に、読者へのメッセージをお願いします。

 ミニマムスタートが肝だと考えています。たとえば自社でAIを使った機能やサービスを開発する場合、社内にサーバーを立てて稼働させようとすると、情報システム部門との協議やルールの整備などに多くの時間を要するはずです。

 今でこそ当社もバージョンアップや新機能の開発に一定の額を投資してもらえるようになりましたが、最初からこの金額は捻出できていなかったと思います。スモールサクセスと検証を積み重ねて事業は大きくなっていくものです。読者の皆さんにもそのように事を動かすよう勧めたいですし、我々の取り組みを通じて「東急ができるなら、うちでもチャレンジできそう」と思ってもらえたら本望です。

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この記事の著者

渡辺 佳奈(編集部)(ワタナベ カナ)

1991年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部を2013年に卒業後、翔泳社に新卒として入社。約5年間、Webメディアの広告営業に従事したのち退職。故郷である神戸に戻り、コーヒーショップで働く傍らライターとして活動。2021年に翔泳社へ再入社し、MarkeZine編集部に所属。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/11/27 09:30 https://markezine.jp/article/detail/47143

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