AIでマーケティングは、顧客のコミュニティを巻き込み“自分ごと化”する方向へ
安成:dentsu Japanでは「AI For Growth」というビジョンを掲げ、「∞AI(ムゲンエーアイ)」シリーズをはじめとしたソリューションや社内の組織運営などにAI技術を活用する取り組みを進めています。まず、現状の見解と、これから重要になるポイントは何でしょうか。
山本:AI活用の浸透によって、マーケティングは顧客がより“自分ごと化”する方向へ向かっていると考えます。マスマーケティングは、メッセージを受け取る顧客一人ひとりが「One of mass」でしたが、デジタルマーケティングでは広告はよりパーソナライズされた手法へ変わってきました。
そしてこれからは、顧客の周囲を巻き込み「あなたが属するコミュニティに向けたマーケティング」を提供する形になっていきます。顧客だけでなく周りのコミュニティも含むことで、一層メッセージを自分ごと化してもらうソーシャルマーケティングの時代になるのではないでしょうか。
加えて、従来の企業から顧客へという一方通行だったコミュニケーションがインタラクティブになり、対話形式のリッチな体験を提供できるようになります。CDP(Customer Data Platform)と掛け合わせることで、顧客をより理解した状態で対話することが重要になってきます。
安成:これからは、それぞれのブランドらしいクリエイティブやキャッチコピーの作成など、より高度なことも求められるようになります。どう対応しますか。
山本:AIは「こういうものを作りたい」と決めた後の作業を楽にしてくれますが、その“こういうもの”を人間側がどう決めるのかが問われるようになります。データの整形などの作業をAIが代替してくれることで、短期的なパフォーマンス向上は人間の負担する部分が減っていくのではないでしょうか。
その分、長期にわたる顧客との関係性の構築が重要になります。パフォーマンス重視のクリエイティブがブランドイメージを棄損することもありますから、クライアント企業が本当にやりたいこと、伝えたいことに向き合う姿勢が、エージェンシーにますます求められると思います。
dentsu Japanが扱う「3つのデータ」とは?
安成:AI技術を活用するためには、データが重要です。dentsu Japanではどのようなデータを活用しているのですか。
松永:我々は、データの収集自体を目的にするのではなく、より良い顧客体験を作ることを重視しています。次の「3つのデータ」があれば、それが成立すると考えています。
1つ目は、クライアント企業が持っている1stパーティデータです。2つ目は、dentsu Japanでマーケティング実行上重要なものとして集めているアライアンスデータ。第3者提供されたものだけでなく、データ管理の委託やデータホルダー側で分析をしていただくなどの形態で間接的に扱えるデータも含みます。そういったデータを2ndパーティデータと呼び、独自のデータ基盤「People Driven DMP」に集約しています。そして3つ目は、EC事業者などを含めた、広義のデジタルプラットフォーム事業者が持つデータです。
松永:顧客(生活者)が日々訪れるプラットフォームの「日常的な」データと、顧客が何らかの目的を持ってサービスやアプリを訪れる際の「非日常な」データに、アンケートやテレビ視聴、位置情報データなどのクライアント企業やプラットフォーム事業者が持っていないデータを掛け合わせる。これら3つのデータをいかに適切につないでいくかが、データ戦略のカギとなります。