関わりがなかった職人たちが現場でコラボ 求められるのは「VPテクニカルスーパーバイザー」
――では今回、なぜ博報堂プロダクツとHCAは業務提携に至ったのでしょうか。感じていた課題などについても教えてください。
井村:我々は映像の具現化に特化した集団で、その手法としてVPを生業にしてきましたが、広告領域でどのように活かしていくのかが課題でした。VPでできることは、全体のワークフローで言えば、後半3分の2程度。その前段階がないとクライアントなどから理解は得られません。スタートからフィニッシュまでのフローが構築されて初めて、広告領域で活用できる手法だとわかっていたものの、自分たちでは解決することができなかった。そんな矢先にお話をいただき、博報堂プロダクツさんと組むことによりトータルかつマネジメントしたうえで届けることができると考えました。
武内:博報堂グループおよび博報堂プロダクツとして、エンターテインメントの未来を見据えてやりたいことがたくさんありました。しかし、テクノロジーが足りずに実現に至らないことも実は多かったんです。そこに卓越したテクノロジーと類まれなスキルを持った井村さんが現れたことで、これがひとつの答えになるのではないかという大きな手応えを得ました。
渡部:VPの技術はハードだけではなく、それを使いこなせる人材がいなければ成立しませんが、HCAさんにはハードも人も揃っている。僕らとしては「井村さんしかいないぞ」という気持ちでした。VP人材はまだまだ足りていないため、育成も一緒に進めていく予定です。
井村:人材については、日本のVP業界全体が直面している課題です。VPは制作フローが従来とまったく異なり、これまでポストプロダクションの作業だったものも撮影現場で同時に進めることができます。VPはこれまで交わることのなかったプロフェッショナルたちが一緒になって作りあげていく必要がありますが、その周知・理解は簡単ではありません。技術だけあっても使う人の理解がないと効果が最大化しないことが浮き彫りになっています。今回の業務提携では、その点の課題解決にも期待しています。
――今まで交わりがなかった部署の人たちがどのように協働するのか、その難しさも含めて詳しく教えてください。
井村:撮影現場では、背景のCGと手前のリアルな被写体を上手く馴染ませる必要があります。たとえば花が咲いている場合、リアルな花とCGの花を同じように見せるには、光やものを同じように作らなければなりません。ものを作るのは美術部で、背景を制作するのはCG部ですが、黄色い花であればそれはどういった黄色なのか、表面はどのような質感なのかなどを細かく事前にすり合わせ、プランニングすることが撮影では不可欠です。そのため今までは自部署内で完結していたことも、他部署と一緒に考えて組み立てる必要があるのです。
しかし、これまでは別々に作業をしていたため、相手が何をしているのかお互いによく知りません。その間を取り持つのが、私の仕事である「VPテクニカルスーパーバイザー」です。部署間やスタッフ間だけでなく、クライアントや広告会社への説明も含めて橋渡しをしていく、つなぎ役のような存在ですね。
武内:ただそういった役割を担える人は本当に少ない。VPにはハードと人の両方が必要で、そのすべてを統合するのが井村さんのようなVPテクニカルスーパーバイザーなんです。
映像領域のさまざまなスキルを持った職人たちがVPという技術のもとでコラボレーションすることは、新しい進化を手にするチャンスにもなると思います。以前までは関わりあうことがなかった職種のメンバーたちが現場でコラボレーションするなんて今までなかったこと。現場でみんながワイワイと新しいものを生み出していくのは、ものづくりとして純粋に心が躍ります。