中間指標しか見ていない?広報の効果を正しく測定するための3ステップ
━━その結果、具体的にはどのような状況に陥っているのでしょうか?
西山:たとえば1年前に実施した施策が、何らかのきっかけで突然話題になることもあります。施策を実施してから時間が経ってから取り上げられ、広がるというケースもあるので、短期的に評価することが難しい状況です。
担当者の方々は記事やSNS投稿としての露出、そのインプレッション数などをデータとして収集していますが、様々なチャネルを横断して一生懸命に集めているうちにデータの収集という手段が目的になってしまい、本来の目的を見失ってしまうこともあります。広報の役割が「企業とステークホルダーとの好ましい関係づくり」から「露出記事数の増加」にいつの間にかすり替わってしまうのにはこのような背景があります。
━━なるほど。では、広報活動の評価、効果測定を正しく行うためにはどのような考え方が必要なのでしょうか。
西山:基本的な考え方に立ち返り、広報活動の指標を「インプット」「アウトプット」「アウトカム」という3つのステップに大きく分けて整理することがやはり重要です。
インプットとは、プレスリリースの配信件数やメディアへの接触回数など、自社でコントロールできるアクションの指標です。アウトプットは、その結果として世の中に出た情報、たとえば記事の露出などを指します。そしてアウトカムは、ステークホルダーの態度変容、検索行動の変化、売上への影響など、最終的な効果を示すものです。
先述の通り、広報活動では様々な指標があり、多くのデータを収集していますが、収集の目的がわかりづらくなります。そこで、まずはこの三段階を理解し、「今集めているデータは、どの段階の指標で効果を測定するためのものなのか」を把握しておく必要があります。
西山:理想となるのはアウトカムの目標達成なので、PDCAを回すにはアウトカムからアウトプット、インプットへと逆算して考えることが大切でしょう。たとえば、「ビジネスパーソンに情報を届けたい」のであれば経済系メディアを重視する、「若者との接点を強めたい」場合はTikTokでの展開を検討するなど、アウトカムの実現に向けて最適なアウトプットを設計。そのために必要なアクションとしてインプットを計画していきます。
川田:広報部門が陥りがちな課題は、3ステップのうち、アウトプットで止まってしまうケースです。以前はマスメディアに情報が出れば、その論調通りにその他のステークホルダーにも受け取られることが多かったのですが、今はメディア以外の人々もSNSで発信でき、ステークホルダー同士が意見を交わし合える環境になっています。
川田:同じ情報を起点としても本人の立場や環境などによって受け取り方が様々になる現在の環境では、情報が届いたかだけでなく、企業に対するイメージがどう変化したのか、どのような行動変容があったのかまで見ていかなければ、広報の目的が達成したとは言えないのです。
アウトカムの測定は短期と長期で方法を使い分ける
━━アウトカムからの逆算が必要とのことですが、アウトカムの効果測定を行う上では、具体的にどのような手法を用いれば良いのでしょうか。
西山:一般的な手法の一つがソーシャルリスニングです。自社やブランドそのもの、実行した施策に対し、SNSで誰がどんなことを言ったのか、好意的な声は従来と比べて増えたのかなどの分析を行います。これは個別の施策の効果を見る際にわかりやすい手法です。
一方、コーポレートブランディングを目的とした活動の効果測定では、長期的な視点を持ち、複合的な要素から成果を紐解く必要があります。この場合、生活者への詳細なアンケート調査を取り入れることがより有効な手段となるでしょう。たとえば当社で展開する「魅力度ブランディング調査」では、企業の魅力を「人的魅力」「財務的魅力」「商品的魅力」の三つに分類して測定しています。
西山:全国20〜69歳の男女1万人を対象に、20業界200社について定期的に調査を実施。そこで得られている結果を基に、業界内での相対的な位置づけも把握できますし、個社で同様の調査を行うことも可能です。