顧客に接し、顧客の思考回路を血肉化する
MZ:では、(2)の顧客に会って話す時間を持つ、について教えてください。
西口:(1)と同じくらい重要なのが、自社プロダクトの顧客に実際に会う、少なくとも話すことです。自社のメンバーで集まって、会議室で「こんな人が買っていそう」「こんなペルソナが立てられそう」と話し合っても、ほぼ意味がありません。
たとえば目安としては、毎日1人は顧客の話を聞くとか、仕事時間の3割は顧客理解や顧客を勉強するのに費やす、会議の3割は顧客の生の声に基づいたディスカッションをする、などです。友人、家族など、あなたのプロダクトの顧客ではなくても何かを買っています。そこを掘り下げるべく話をするのです。
MZ:顧客に接する時間、顧客について考える時間を増やすということですね。
西口:はい。顧客や、潜在顧客である生活者から直接的に話を聞く時間、また街などへ出て顧客を見る時間を仕事の大半にあてようとして、結果的に3割くらいはあったほうがいいと思います。逆にいえば、顧客の理解なしに、どれだけ頑張って時間を使って仕事をしても、望ましいビジネス結果を出すのは難しいと思います。
先に解説した通り、放っておいてもビジネスパーソンは企業目線になります。なので、できるだけ顧客に意識を向けようとして、し過ぎることはありません。常にリアルな顧客を捉えるよう努力し、顧客の思考回路を血肉化することが大事です。
付け加えると、できるだけ若手のうちに顧客の目線でものごとを捉えられるようにトレーニングできるといいですね。新人研修などで、基礎的なマーケティング知識を習得するのももちろん大事ですが、同じように「顧客の目線とは何か」、また「企業の立場で顧客を見ること」と「顧客の思考回路でものを見ること」の違いを知ることもとても大事です。これにより、実務への取り組み方も変わってくるからです。
「顧客に聞け」「顧客に聞くな」はどちらも正しい?
MZ:顧客の思考回路というのは、(3)で挙げられていることですね。その上で、顧客を洞察して「WHOとWHAT」の最適な組み合わせを見つける、ということでしょうか。
西口:はい。どうしても企業目線になってしまうことを変える唯一の方法は、少し変な表現ですが、顧客に憑依されるように顧客側の思考回路に入ることです。私の経験則になりますが、これができたと思ったときはプロダクトが多くの顧客に受け入れられました。
一方、この実感がないままに、顧客を“マス”として捉えたデータなどからビジネスを進めてしまった時は、架空の顧客に向けて仕事をしてしまって、失敗と言わざるを得ない結果になることが多かったです。
企業の論理は必ず入ります。むしろ、その論理が入らないならビジネスとはいえませんし、事業の継続、つまり顧客に継続的に価値を提案することもできなくなります。なので、企業の利益追求も当然ですが大事です。その発端が、顧客であるべきということなのです。そのために重要なのが、顧客を洞察することです。
MZ:顧客を洞察する、というのは、本連載でたびたび出てきた言葉です。
西口:単に「聞く・知る」とは違い、洞察とは深い心理まで捉え、顧客の行動や判断の理由と本質を見抜くことです。
顧客のニーズや課題をつかむのは大事ですが、一方で、「顧客に聞いても意味がない」という言説もあります。確かにこれは部分的には正しいです、なぜなら顧客は「自分の欲しいものがわからない/言語化できない」ことも多いからです。だからこそマーケターは顧客の心理を深く洞察し、顧客の潜在的なニーズまで探ることが必要なのです。
iPhoneが登場した時、前例のないデバイスだったので、最初はむしろ「売れないのではないか」という声が多く聞かれました。しかし、その後の人気と普及は周知の通りです。イノベーティブなものは、顧客にどれだけ聞いても具体的に「こんなものが欲しい」という意見は出てきません。潜在的なニーズまで洞察するのです。
