独自ポイントを通じたLTV戦略に欠かせない三つの視点
木下:一つ目はやはり、「お客様への提供価値が増大するかどうか」。こうしたデジタル施策ではどうしても提供者目線になりがちなのですが、お客様に価値がなければ見向きもされません。
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木下:明治での具体的な提供価値の増大を挙げると、たとえば、粉ミルクなど3タイプの商品を展開する乳幼児向けの商品ブランド「明治ほほえみ」では、「赤ちゃんノート」という乳幼児の栄養管理、育児記録アプリを通じてブランドの知見を活用し、育児の支援という体験価値まで既存の商品価値を拡張しています。また、昨年始まったばかりの新サービス「インナーガーデン」は、便の検査から腸内の菌のタイプを特定し、それに応じて商品をお送りするもので、デジタルの力でパーソナライズされた体験を実現しています。もちろんこれらも今回の明治会員IDと連携し、提供されるものです。
二つ目は「1to1のコミュニケーション」。仮に会員IDを取得できたとしても、その人によって必要な商品や情報は異なるため、適切なタイミングで適切な情報提供を行う必要があります。
三つ目は「Online to Offline(O2O)」の観点です。これは明治の商品特性とも関連しますが、オンラインですべてを完結させるよりも、お客様の消費形態に寄り添うことが重要。生活圏内のコンビニ、ドラッグストアなど普段の買い物の場所で商品と接したほうが、より自然で利便性の高い体験となります。特にメーカーのデジタル施策では、流通小売と対立するような構造にどうしてもなりがちなのですが、そこで互いにメリットがある共創関係をいかに築くかは実現させるための重要なポイントです。
3層構造の明治エコシステムと描かれる“理想の体験シナリオ”
━━これらを加味した結果、システム全体としては大まかにどのような構造となったのでしょうか?
木下:この3点を実現するために今回構築したのが、我々が「明治エコシステム」と呼んでいる仕組みです。このシステムは次のような3層の構成になっています。
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木下:上の層に並ぶのがデジタルサービスで、各体験をそれぞれに最適化していく機能です。それらをつなぐ役割として、かつ共通部分を効率的に開発していくために、中央のデジタルマーケティング基盤が作られています。今回の明治ポイントやクーポン管理はこの基盤に位置づけられている機能です。たとえば次の図のように、「赤ちゃんノート」を利用して得られたポイントを「インナーガーデン」で使う、さらに貯めた明治ポイントを商品が無料になるクーポンと引き換えするといった形で横断した利用を目指しています。
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木下:DXの取り組み、LTVの向上はやはり企業視点の話であって、お客様からすればどうでも良いこと。お客様視点でどのような価値があるか、今の消費形態、購買行動に寄り添った形で新しい価値を届けられるか、高められるかを考えて作ることはマーケターにとって当たり前ではあるかもしれませんが、そこには改めてこだわっていくべきだと思います。
━━今回開始される明治ポイントのようなサービスの開発は、自社や社会に与えるインパクトが大きい分、その規模の大きさ、関わるステークホルダーの多さから、推進が難しいものかと思います。貴社ではどのような課題に直面し、またそれをどのように乗り越えてこられましたか?
川端:当社ブランドは幅広いため、ブランド横断といってもまだ道半ばの状態ですし、各ブランドがマーケティング戦略を立てる上で、このシステムが軸になるという段階ではありません。それでも現段階で四つのデジタルサービスと連携し、明治ポイントの本格的なスタートを踏み出せたのは、これまでの社内テストや各事業へのメリットを周知するといった活動の結果です。