自動車産業のEV化に見る多極化と一極化の例
自動車産業における「2030年のEV化目標」の取り組みは、典型的な一極偏りの例だ。今後はこの圧力から解放され、事業における多極化がそれぞれの国で進んでいくだろう。多極化とは逆の先行例として、TOYOTAが継続して提唱していた「マルチパスウェイ」がいま再び注目を集めている。
2020年から2021年にかけてEV化の流れ(圧力)が急速に進み、「TOYOTAは遅れている」と揶揄されることもあった。しかし、TOYOTAは一極的なEV推進にこだわらず、マルチパスウェイ戦略のもと、各地域や消費者のニーズに応じた多様な選択肢を維持し、そのための生産工場も保持し続けた。EV化の流れを受けてもTOYOTAは持続的な成長を目指す長期視点を据え、微動だにしなかった。
筆者の立場は、炭素排出削減の重要性を否定するものではなく、「選択と集中」や「一極化」への反対意見を唱えるものでもない。各地域や消費者の判断を尊重し、「一本化する必要は、ない(よ)」という視点で多様な解決策を共存させる柔軟な考え方のヒントを見つけたいのだ。この点で、TOYOTAの姿勢には芯が感じられる。
対照的に「一極化」を進めてきたのがドイツだ。ドイツは国の経済にも影響する重要な自動車産業において、EUが推進する「2035年EV化法案」に基づき、100%EV化へ向けた一極化を進めてきた。
さらに、国家の命脈であるエネルギー政策において、原子力発電からの脱却を進め、2023年に完了。これにともない、ロシアの天然ガスパイプラインに一極依存する状況を続けていた。
2022年9月、ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプラインが爆破されたことにより、ドイツ経済に多大な影響があったのは周知の通り。さらに2023年12月、EV補助金制度が突然終了すると、EV販売の低迷や工場閉鎖に派生し、自動車産業から国家経済全体に負の影響が出てしまった。
今後のドイツおよびEU経済の動向として、ロシア一極から脱し、多極化や地域間協調における(再)自立に向けた動きが加速する。この動きも単なる二極的な視点で捉えるのではなく、温和で多極的な協力関係が生まれる可能性のほうに注目したい。
米国新政権が目指す世界観とは、このような依存先の集中を緩和し、各国の「自立的な」発展を支援するものと予想(期待)する。国家だけでなく、経済でも「分散型の自立」を高めることができる。
TOYOTAやドイツの例は、日本にとっても身近な自動車産業の一部に過ぎない。多極化の進展が世界経済にどのような可能性をもたらすか――正誤の二極化にとらわれない、新たな経済の潮流を歓迎すべきタイミングにいる。
