ロングセラーブランド「パイの実」が陥った停滞期
「パイの実」は、1979年に発売されたロングセラーのブランドだ。パイ菓子が百貨店でしか買えなかった時代、「ちょっといいお菓子を手軽に食べたい」というニーズに応える形で誕生した。

「パイの実」「カスタードケーキ」のブランドマネージャーとして、ブランド戦略構築や新商品開発、プロモーション企画を担っている
開発時からのこだわりは「64層のパイ生地」。サクサクの食感を追求して試行錯誤した末に、ようやくたどり着いた層数だという。
そんなパイの実ブランドが抱えていた課題は、2020年頃から売上がじわじわと下降していたことだ。話題化のための施策や新商品の導入を行ったが、効果は限定的で伸び悩んでいた。
これまでも「課題発見のための定量・定性調査は、継続的にしてきた」と久保田氏。しかし、消費者インタビューで出てくるのは「嫌いじゃないけどなんとなく買わない」といった曖昧な回答で、売上の停滞を打破する解決策には結びつかなかった。
売れない理由より「買われる理由」からインサイトを探す
そこでパイの実が行ったリニューアル戦略は、簡単に言えば「Who、What、Howの見直し」だ。久保田氏いわく、ロングセラーブランドこそ基礎を徹底することが重要なのだという。まずは「パイの実の価値」を徹底的に洗い出す作業を行った。「香ばしい」「かわいいパッケージ」「昔からある」といったキーワードを久保田氏自ら書き出したという。
その上で、Whoを見つめ直すためには、顧客の行動や価値観を基に9つのセグメントに顧客を分類する「9セグマップ」を活用した。これまで積極離反顧客への調査を重ねてきたが、改善のヒントは見つからなかった。そこで今回は、購入頻度と金額が高い「積極ロイヤル顧客」、つまりパイの実を買い続けているファンに注目した。
「パイの実の積極ロイヤル顧客が、パイの実に対して感じる本質的な価値とは何か。パイの実をなぜ買い続けてくれているのかを徹底して聞きました」(久保田氏)
1対1のデプスインタビューを行う上では、久保田氏は「顧客にダイレクトに価値を聞かない」ことに注意したという。
「インタビューでは『パイの実はあなたにとってどんな価値がありますか』と聞いてしまいがちだと思います。しかし、この質問で得られるのは、既にCMやパッケージなどで訴求されている教科書的な答えです。そうではなく、間接的でプロジェクティブなアプローチで、対象者自身も自覚していない価値を探ることが必要です」(久保田氏)
そこで久保田氏がとったアプローチは、たとえば「どんな気持ちのときに、どんなお菓子を食べたくなりますか」「それぞれのブランドに合う画像を持ってきてください」といった他のブランドを含めた質問だ。好き嫌いを直接聞くのではなく、間接的なアプローチをとることで顧客の深層心理、インサイトが掴みやすくなるという。