「パイ菓子」としてパーセプションチェンジを図る
そしてインタビュー調査の結果を踏まえて、パイの実の価値を「機能価値」「情緒価値」ともに整理した。機能価値は「サクサクの食感とチョコの絶妙なバランスを楽しめる唯一無二のパイのお菓子(≠チョコのお菓子)」、情緒価値は「おいしさだけではなく絵本のようなパッケージがほっと幸せにしてくれる」とまとまった。

それまでの離反顧客・未顧客へのインタビューではパイの実は「チョコ菓子」の一つと捉えられていることが多かった。しかし、積極ロイヤル顧客への調査から、パイの実は「唯一無二のパイのお菓子」であるというインサイトを得たのだ。
そこで、未顧客を顧客に変えるためには「唯一無二のパイ菓子」というパーセプションを形成する必要があると判断。その一手として、「パイ生地」のリニューアルに踏み切った。「パイは必ずサクっとしていてほしい」「もっとサクサクでもいい」といった積極ロイヤル顧客からの声を基に、パイ生地を「焼きたてのパイ」に近づけることを目指した。
立ちはだかる「社内の壁」をどう突破する?
しかし、このパイ生地のリニューアルを実施する上では、大きな課題が立ちはだかったという。それは「社内のパーセプションチェンジ」の課題だ。というのも、社内では「パイ菓子」というカテゴリーはなく、パイの実は「チョコレート菓子」として区分されてきたため、社内でもパイの実=チョコレート菓子という固定観念が強かった。
そのため、パイの実を「パイのお菓子」として強化することは、久保田氏にとって大きな挑戦だった。リニューアルには社内理解が不可欠であり、特に製造部門の理解を得られなければ、製品の改良も行えないのだ。実際に先輩社員からは「パイの実のチョコをないがしろにするのか」と懸念を示されたという。
そこで久保田氏は、新たなブランド戦略のスローガンを策定。「パイの実の主役はパイ」という端的な表現で、社内のブランド理解を図った。また、工場やR&D部門の協力を得るために、時には遠方の工場まで足を運び、顧客インタビューの映像も映しながら、スローガンを共有していった。
こうした努力の甲斐あって、社内の意識は徐々に変化したという。
