巨大プラットフォーマーが占有する広告市場で生まれるビジネスチャンス
CESでソレル氏が繰り返し強調していたのは、「メディア事業のさらなる事業価値」だった。氏の発言をカウントすると、なんと「Media」という単語が「Brand」「Ad」「Marketing」の3倍の回数で頻出していた。その背景には、近年の広告市場構造がある。
ここ数年のグローバルでの広告「出稿」企業ランキングを見ると、トップはAmazonがダントツで、出稿額は約3兆円(203億ドル:2023年度)。上位10社の顔ぶれも、これまで常連だったP&GやユニリーバなどのCPG企業は少数となり、入れ替わる形でAlphabet(Google/YouTube)、Comcast(Sky/NBC)、ByteDance(TikTok)、Alibaba、PDD(Pinduoduo/Temu)、Samsung(SamsungAds)などの「広告収益を得る企業」による広告投下が激増している。いわば、広告費を投下して回収する「循環」にエコシステムが機能しているわけだ。
見方を変えると、上記のグローバル広告メディア企業は、自社の広告価値を維持・向上させるために「TAC(Traffic-Acquisition Cost:広告トラフィック獲得コスト)」を増大させているとも言える。TACによるトラフィック獲得は、自社のメディア資産価値を増加させる投資(=設備投資、ソレル氏はCapExと発言)なのだ。
そうして高めた媒体資産価値を活用し、ブランド企業から広告費(OpEx)として回収する――この「行って来い」のサイクルが、広告業界のエコシステムとして急拡大している。
CPG企業やスタートアップ企業側から見れば、企業価値が100兆円越えの巨大メディア企業によるTAC投下によって、メディア価値がますます吊り上げられ、広告コストは増大していく。広告主(ブランド)企業側は、これを短期的なP/L上のコストとして消化するのか、それともインフラやブランド資産としてのB/S投資を優先するのか。自社のキャッシュをTACに投資することが本当に適切なのか、投資の目的や意味合いを深呼吸して確認したい。
S4 Capitalを率いるソレル氏としては、依然として手間のかかるクリエイティブ領域におけるAI活用よりも、安定的に循環収益を生み出すメディアビジネスへ回帰したいという意図が発言から見て取れる。
2025年で80歳を迎えるソレル氏の投資矛先は、ブランドづくりに取り組む企業にとって試金石となるだろう。
