直販ではないからこそCRMを模索
MarkeZine編集部(以下、MZ):サントリーでは、2023年に酒類部門の中にCRMの部署を新設されたと伺っています。その背景と役割をお伺いできますか。
馬場:発足して3年目を迎えましたが、私が所属するCRM部は現在、コミュニケーション本部内にあります。宣伝部と並列の関係で宣伝部はどちらかというと広くコミュニケーションしていくのに対して、CRMはお酒を飲む方に継続的に深くコミュニケーションすることを目的としています。

兼 サントリーホールディングス株式会社 デジタル推進部 部長 馬場 直也氏
馬場:コミュニケーション本部にいるので、お客様と継続的にコミュニケーションをしていくことで当社のファンを増やしていくことを目的にしているのですが、期待されている役割は大きく2つあります。1つはお酒を飲む、お酒好きな方と接点を持っていくことです。
酒類市場は上位約2割のお客様が約8割の売上を支えている完全に2・8の構造です。こうしたことからも、お酒を好きな顧客と直接つながり、継続的な関係を築く必要性は増しています。
もう1つは、メーカーとしても直接お客様とつながれる、何らかのインフラを持つことです。データ取得の環境変化の影響を受けにくい面からも、自社メディアなどを持つことの重要性はさらに高まっています。
また酒類が置かれてる特有の環境として今後、広告規制など法やコミュニケーションの規制が強まることも考えられます。また当社はお客様に直接販売しないBtoBtoCのビジネスモデルだからこそ、お客様と直接コミュニケーションをしていくべきだとCRM部門が立ち上げられました。
アプリ運用で見えてきた課題
MZ:CRM部では具体的にどのような取り組みをされているのですか。
馬場:私が赴任する前になりますが、2023年12月にテスト版として、アプリ版 会員プログラムをローンチしていました。具体的にはポイントプログラムを中心としたアプリで、購入製品のレシート画像や飲食店で飲んだジョッキの画像を投稿したり、工場やイベント会場にチェックインしたりするとポイントがたまるサービスです。
実際に運用をしてみて難しさを感じたのはアプリをダウンロードしていただくハードルです。お客様に提供するサービスの価値が高ければダウンロードしていただけるのですが、現時点では答えが見つかっていません。また当社らしいサービスは何なのか、といった議論もしました。こういった議論の中で注目したのがLINE公式アカウントでした。
MZ:なぜLINE公式アカウントに注目したのですか。
馬場:当社のLINE公式アカウント“おとなサントリー”は、2015年から数あるオウンドメディアの一つとしてサントリーホールディングスの宣伝部で運営していました。お客様とのデジタル上の接点として当社内では最大規模で友だちの数は2,400万人超と、とても大きな資産になっているので「これを活用しない手はない、資産であるLINEの接点規模にCRMの概念を組み込むことで、酒ブランドのファン化を図っていこう」と考え、運営を私がいる酒事業会社のCRM部に移管し2024年の秋から運営を始めています。
また今のSNSは自分の興味や好みに合わせて情報がフィルタリングされる、フィルターバブルが起こり興味のある似通った情報しか届かなくなっています。逆に少し見方を変えればLINEは、フィルターバブルの影響を受けずに直接かつ継続的に情報が届けられるメディアなので、CRMにおいて大変価値があると考えました。

MZ:サントリーではLINE公式アカウントをどのように活用していますか。
馬場:当初はテレビCMやキャンペーン情報といったリーチメディアとしての使い方が中心でした。直近はブランド担当が瓶商品に関心がある層など一定のターゲティングをした情報を発信するほか、営業拠点でエリアのイベント開催情報やチェーン店との取り組みをお客様に発信するなど、事業や宣伝部署だけでなく営業拠点、工場など様々な部署が積極的に活用し始めています。