AI未経験者を試行者に引き上げるための取り組み
行ってきた様々な施策の中でも、特に効果を感じた取り組みの一つとして、工藤氏はプロダクトデザイン室の各組織への説明会行脚を挙げた。
「説明会を開催する時は、必ず組織長を巻き込み事前に期待値調整をしておくことで、しっかりとインプットしてもらえる環境を整えていました。また、アカウント登録や各種申請など、環境整備に関わる煩雑な作業は事務局側で代行しました。これも成功を左右するポイントだったと思います」(工藤氏)

他にも、有識者をゲストに招いた社内勉強会は大きな効果をもたらした。AI時代にいち早くキャッチアップすることの重要性を高い視座から語ってもらうことで、危機感とともに関心を高めることができたという。
こうした施策の成果もあり、プロダクトデザイン室内には生成AIの試行者が増加した。しかし、試行者を活用者へと育成するステップで次の壁に直面することになる。
併走型の支援プロジェクトで、エバンジェリストを育成
一般的な事例はわかるものの、自分の業務に置き換えた時にどう使えばいいのかがわからない。実際の業務においてどれぐらいのインパクトがあるのかわからない。具体的なプロンプトのイメージが湧かない――こうした課題が、社内で生成AIの試行者から本格的な活用者へステップアップする際の壁として浮彫になっていた。そこで、次の段階として、これらの課題を解消する打ち手を推進していった。
課題解決のための取り組みは2つ。伴走支援プロジェクトと、そのプロジェクトを経た上で実施されるワークショップだ。
1.生成AI有識者による伴走とエバンジェリストの養成
1つ目の伴走支援プロジェクトは、コンサルティング支援に近い。様々な組織の案件にAI活用推進側の社員が入ることで、AI活用のスキル・ナレッジを共有しながらリスキリングを図るというものだ。

組織規模に対し、活用を推進するメンバーはごく少人数でリソースが圧倒的に不足していた。しかし、少しでも効果を発揮するため、それぞれの組織にエバンジェリストを育成し、他のメンバーや案件へ伝播させていくというアプローチをとった。このときに重要になるのが、誰をどの案件にアサインするかというエバンジェリスト候補の選定だ。
工藤氏は、案件とエバンジェリスト候補を選定する際の観点として次の3点を挙げた。
1点目は「案件インパクトが大きく、組織に戻った時に伝導・普及しやすいこと」、2点目は「生成AIスキルに対するリスキリングの熱意がある人」、3点目は「業務・ビジネスプロセスが可視化されインパクトが把握しやすいこと」。これらの観点をもとにエバンジェリストとなる人や案件を選んだ。
伴走支援はおよそ2~3ヵ月の間で行われ、前半は業務を可視化し課題を整備するところから進めていく。現状の課題をヒアリングしながら、生成AIを活用するソリューションを擦り合わせしていくフェーズだ。この時、あえてAIやITを用いずとも、ルールや業務を変えるだけで解決できる場合もあるため、本当にAIで解決すべき課題なのかも含めて擦り合わせをしていく。
実際に課題が明確になったら、活用推進側でプロンプトやモックを作成し、リスキリングを目的とするためエバンジェリスト候補がチューニングをしていく。わからないことは壁打ちで相談しながら磨き込みをかけていくことになる。
「大体2ヵ月ぐらい経つと、小さい成果が出てきます。成功体験を小さく積み重ねることが大切で、生成AIの有用性をこの伴走プログラムで体感してもらえるよう意識しています」(工藤氏)
2.有識者を巻き込んだ生成AI活用ワークショップ施策
2つ目のワークショップは、異なる知見・専門性をもった有識者を巻き込んだワークショップに参加してもらう形だ。
「ワークショップでのコツは、各テーブルに有識者を数名配置することです。有識者または事務局メンバーが全くいないと情報交換をしてもなかなかナレッジが循環されにくいです。ファシリティ担当を配置することで、ナレッジの循環を促しています」(工藤氏)