コミュニケーションの基本スタンスは、リアルもデジタルも同じ
MZ:具体的に、アプリではどのようなことをされているのですか。
谷本: 銀行の窓口で初対面のお客様にいきなり「投信を買いませんか?」などと商品提案をすることはありません。
デジタルチャネルでも同じで、まずは関係性を作り、お客様のニーズを把握することが大事だと考えています。ですからこの2年間はお客様を知るためのコミュニケーションを主軸に実施してきました。たとえば、アプリでお客様に適したタイミングでメッセージを送る、アンケートを実施する、コンテンツのログ履歴を通じてお客様のことを教えていただく、といったことをしています。お役に立つ情報を通じてお客様のことを教えていただくことを意識し、一方通行のコミュニケーションにならないよう心掛けています。
現時点では投信販売額や住宅ローンの申し込み件数など、成果を追い求めることはしていません。KPIも「どれだけお客様とつながることができたか」を数値化し計測することにしています。
銀行店舗ではご高齢者のお客様が中心とか、法人関係のお客様が多いなど、店舗ごとにいろいろな特性があります。広島銀行の特徴は、業績評価制度を廃止して支店ごとに自分たちで支店目標、個人目標を設定し、その達成を目指していることです。そういう意味では、デジタルチャネルも1個の支店であり独自の目標を設定し取り組んでいます。
MZ:この実現のためにTOPPAN様はどのような支援をしてきたのですか?
山本:まずプロジェクトの整理から入りました。TOPPANがサポートを開始した当時は、CDPやMAはパートごとに分断されていました。そこを一気通貫で見られるようにしたのがスタートラインです。その後は実施したい施策の概要をプロジェクトメンバー全員と共有し、認識を合わせながら進めました。必要に応じて個別に分科会なども実施しています。
将来的にひろぎん様に携わる方々が、後から見てもわかるものをきちんと残していくのがTOPPANの基本スタンスです。プロジェクトとしてドキュメントの作成を大切にし、初期段階からチェックして不足分は補強してきました。
また、コミュニケーションを大事にしています。毎週ひろぎん様のオフィスにお邪魔して、雑談みたいな気軽さで対話する場を設けています。

ユーザーを知り、選ばれる地銀であり続ける
MZ:ユーザーを知るとのことですが、取得されたデータの活用構想はすでにお持ちですか。
谷本:集めたデータは将来的にお客様と長く深いお付き合いをするために使っていきたいですね。今はまだ、集まったデータを使える情報にするためのユーザーデータベースを作っている段階です。
たとえば、お客様の年収情報一つとっても、ローンの契約書や投資信託購入時のヒアリングシート、ライフプランシミュレーションの際の回答、入出金明細の給与を足し上げたものなど、入手ソースがたくさんあります。各業務担当者はその時点の情報として把握していても、銀行横断では追えていませんでした。それらをきちんと一元管理できる仕組み作りに着手し、やっと1歩を踏み出せたところです。
これまで銀行が持っていた勘定データや申込時のお客様情報は、その時点の断面の情報であり、お客様が何かをするために行動を起こした結果です。お客様がどういう性格で、なぜその行動や選択に至ったのかまではわかりません。銀行情報以外のデータから、お客様を知るすべを模索しながら、そのデータの確度と鮮度をどう判断していくのかはかなり難しいと思っています。
データの活用については、お客様が満足される使い方ができなければ、心を開いたデータは提供していただけませんし、収集する意味もありません。難問ですが、メンバーとともに取り組んでいきたいと思います。
MZ:ユーザーから「選ばれる地銀」であるために必要なことは何だとお考えでしょうか。
谷本:いかに「ひろぎんに任せたい」と思っていただくかです。銀行商品は、金利も含め大体が横並びです。金利競争に巻き込まれないためには、アフターサービスの充実や情報の的確さなどで戦っていく必要があると思っています。お客様に選ばれるためにはイメージ戦略やブランド戦略も大事です。これからも地域に根差し “親が子に安心して勧められる銀行”“世代を超えてご利用いただける銀行”を目指していきたいですね。