当事者の声をくみ取る体制をどのように整えた?
川合:この事業企画をスタートさせるにあたって、会社への説明など、苦労したことはありましたか?
長田:そういったものはありませんでした。ZOZOが掲げている「ZOZOらしさ」の1つに「 ソウゾウのナナメウエ」というものがあります。既存のやり方にとらわれないことがカルチャーとして浸透しているので、スムーズに進められたのだと思います。
川合:カルチャーがあるからこそ、意思決定も速やかに行われたのですね。事業の企画からサービスに落とし込むまでのステップで、悩みはありましたか?

長田:障がい当事者の方々のニーズをどのようにくみ取るか、という点は苦労しました。私がこの事業を提案したきっかけは、娘が重症心身障がい児だったからですが、私は私の娘のことしかわかりません。日本には、障がいのある方たちが推計1,164.6万人いるとされている(※)のですが、その方たちが具体的に何に困っていて、何を必要としているのかという情報はないのです。障がい当事者の声を聞いたものづくりが、絶対に必要だという思いがありました。
しかし実際に事業をローンチに向け準備を始めると、自社だけで当事者の声を吸い上げる難しさが見えてきました。そこで「キヤスク」を展開しているコワードローブの前田さん(株式会社コワードローブ代表 前田 哲平氏)に、直接相談をさせてもらいました。前田さんは、独立して事業を始める際に、3年で800人を超える障がい当事者の方にヒアリングしたそうです。事業を始めてからも、日々のお直しサービスを通して、障がい当事者との対話を繰り返しやってこられました。その知見や仕組みを使わせていただくことで、ものづくりの体制が整いました。
※障がい者の推計:厚生労働省「『令和4年生活のしづらさなどに関する調査』の結果を公表します 」(2024年5月31日)
ヒアリングやフィッティングの結果を商品開発に反映
川合:第1弾の「チェアーパンツ」を作る過程で、具体的に参考になったユーザーの声がありましたらお聞かせください。
長田:「キヤスク」さんと協業しつつ、私たち自身も直接当事者の声を聞く必要があると考えました。そこで、チームのみんなで特別支援学校にヒアリングやフィッティングに行き、そこで見つかった課題を、商品開発の中に活かしました。

たとえばサイズ展開について。私たちは当初56通りのサイズを用意しており、それで問題はないはずだと思っていたのですが、いざフィッティングをしてみると、ニーズをカバーできていないことがわかりました。車椅子ユーザーの方は歩行が困難なので、脚が細かったり短かったりするケースがあり、XSよりもさらに小さいサイズが必要だったのです。それを踏まえて、サイズ展開をさらに13通り増やして69通りにしました。
サイズの表記方法も、ヒアリングを経て変更しました。XSよりも小さなサイズというと、キッズサイズといった表記の仕方をよく見かけると思います。このサイズ表記について、当事者の方から、「キッズサイズが着たいわけではなく、それしかないから着ているんです」という声が聞かれました。ヒアリングを踏まえて、「キヤスク with ZOZO」では2XSから6XSという表記を用いています。
川合:事業担当者だけではなく、みなさんで障がい当事者の方々に意見を聞きに行くこと、当事者の方々にもプロジェクトに参画していただくことは、やはり大事ですよね。