事業のゴールは、ファッションを楽しんでもらうこと
川合:商品を発売されてから、どういったフィードバックが寄せられていますか。
長田:「着やすい」「着せやすい」というお声をいただいています。機能的な面では喜んでいただいているので、次のステップとして、ファッション性を求めていきたいと考えています。

「キヤスク with ZOZO」が目指しているのは、障がいがあろうとなかろうと、みんながファッションを楽しめる状態を作ることです。健常者は気軽にファッションを楽しめます。でも障がいのある方は、ちょっとおしゃれな服を着ようとすると、着替えにものすごく時間がかかってしまうのです。するとつい億劫になってしまい、結局外出も控えがちになってしまいます。
そうではなくて、健常者も障がい者も、みんながファッションを楽しめる、そういう状態がインクルーシブだと理解しています。それができれば、障がいを持った方たちもその服を着て、どんどん街に出て行き、どんどん社会に参画していく。そういう世界が実現できると思っています。
川合:機能を提供しながら、新たな価値創造の連鎖を作り出していくというのは、事業開発の根幹と言えると思います。そのような長田さんのビジョンは、チームのメンバーにどのような形で共有されているのでしょうか。
長田:事業を始めるにあたっては、今お話ししたようなコンセプトを共有した上で、スタートしました。
「ファッションであること」のほかにもう一つ重視しているのは、慈善活動的な姿勢で取り組まないということです。ファッションを楽しみたいのに楽しめないという人たちの市場があり、それは潜在的には国内で1,000万人を超える規模でありながら、アパレル企業にとっては在庫の壁がありました。私たちは、そうした課題に対し、私たちの強みである生産支援を通じてファッションブランドとともに挑み、インクルーシブウェアの輪を広げていきたいと考えています。
そして、私たちは、そこに事業として参入するのだ、と考えています。このような姿勢は、事業を持続可能なものにするために必要なことだと思います。
解決策がないと言われる課題を、テクノロジーで変えていきたい
川合:サービス提供開始から4ヵ月で、ナノ・ユニバースさんやシップスさんとのコラボレーションも決まっていますね。ビジネスとしての可能性については、どのようにお考えですか?
長田:ビジネスとしての可能性は、とても大きいと思います。まず潜在的なお客様としては、国内で1,164.6万人。世界では約10億人(※)という規模になります。しかしそれは、あくまでインクルーシブウェアを機能性にだけ限って捉えた、第1フェーズです。
※世界での障がい者数:国際連合「障害を持つ人々」参照
次のフェーズとして「インクルーシブウェアって機能的なだけでなくかっこいいよね」という世界を作っていければ、世界中により広く浸透していくのではないかと思っています。だからこそ、「ファッション」に強みを持つファッションブランドと一緒に活動するという仕組みを作っています。
川合:最後に、事業開発のプロフェッショナルとしての視点から、他の企業がインクルージョンに取り組む上でのハードルやその乗り越え方について、考えをお聞かせください。
長田:インクルージョンの実現には様々な壁がありますが、それを乗り越えるために、テクノロジーは大きな力になると思っています。アパレル業界にとってのハードルは在庫でしたが、「Made by ZOZO」のテクノロジーを活かすことで、問題を乗り越えられました。テクノロジーを活用し、新たな仕組みを作っていけば、それまで解決策がないと思い込んできたことや、習慣でやってきたことに楔を打ち込み、変えていくことができるのではないでしょうか。そうすることで、初めて1人ひとりに寄り添うことが可能になり、インクルーシブな世界が開けてくるのだと思っています。