「届ける相手」と「伝え方」の工夫で、カテゴリーを確立
田岡:元々タイミーさんが一番指名件数が多いのかと思っていたのですが、そうではなく、顧客解像度を上げていき、ターゲットとメッセージを調整していくことで、カテゴリーの確立とその中での認知獲得を進めていかれたのですね。TENTIALさんは、いかがですか?
岩松:実は「リカバリーウェア」のカテゴリーである“BAKUNE”は、市場参入時には既に10社程度の競合がいました。ですが、カテゴリー自体があまり知られていない状況でした。そこで「なぜ知られていないのか?」という部分を明らかにすることにしました。
そもそも、一般の方々にとってのリカバリーウェアのイメージは「アスリートがパフォーマンスを上げるために使うもの」であり、それが同時に「自分は一般人だから関係ない」という意識にもつながっていたわけです。そこで、届ける相手をアスリートから「ビジネスパーソン」に、伝え方も「パフォーマンスアップアイテム」から「疲労回復できるパジャマ」へと言い換えることにしたんです。

会話を通じて「相手に刺さるポイント」を探っていく
田岡:これはぜひ伺ってみたかったのですが、「アスリートのパフォーマンスを上げる」というコンセプトから“WHO”と“WHAT”をずらすこと自体、かなり大胆な決断だったと思います。そこにはどんな意思決定があったのでしょうか?
岩松:弊社は元々、シューズのインソールなどから参入していった会社です。ブランドの思想としては「アスリートレベルのコンディショニングを、ビジネスパーソンに」なので、ターゲット自体は変えていないんですね。ただ、お客様一人一人の話を聞きながら、彼らに伝えるにはどうすればいいのかを徹底的に考えました。伝え方を研ぎ澄ませることで、ここまで至ったという感じです。
田岡:おふたりとも顧客解像度を上げるためにヒアリングを繰り返されていったということですが、その際に「特にこれを聞こう」と意識されていたことはありますか?
岩松:私が常に意識していたのは「相手に刺さるポイント」ですね。これは、話をしているうちに「あ!それだったら欲しい」と言ってくださるときがあるのですが、そのポイントを探っていきました。たとえば、疲労回復のメカニズムを話しても全然刺さらないけれど、「これを着て寝ると、疲労回復できるんですよ」と伝えれば瞬間的に「欲しい!」と思っていただける。そこへ補足的に情報を加えることですごく刺さるようになると感じましたね。
中川:タイミーはプロダクトの関係上、「n1インタビュー」が非常にやりやすいんです。「アルバイトとして話を聞かせてください、謝礼は千円です」と。n1の声を集める時のポイントは、“生々しいインサイト”を探ることですね。それらを通じて、タイミーが「体験全体を通じて提供している価値」ってなんだろう、という整理を進めていきました。