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広告効果5.1倍!Spotifyと電通ジャパン・インターナショナルブランズが調査で示す今後の重要指標

 ながら視聴、マルチタスクが当たり前となった今のデジタルメディア環境では、「広告は本当に見られているのか」という問いが重要度を増す。そんな中、インプレッションだけではない新たな指標が、広告効果の評価軸として注目されている。電通ジャパン・インターナショナルブランズとSpotify Japanは、広告の新たな評価指標として「アテンション」(広告への関心・注目度)を取り上げた調査を実施。その調査背景や結果から、広告効果を最大化するための新たな視点を聞いた。

広告への注目度「アテンション」をどう計測するのか?

━━まずは、アテンションがどのような指標なのかを教えていただけますか?

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(写真左)

電通ジャパン・インターナショナルブランズ
ストラテジー&イノベーション担当シニア・ディレクター
ジョシュア・グラント氏

電通グループで約12年の経験を持ち、米国・仏国を経て7年前に来日。当初はプログラマティック広告責任者として従事。アテンションエコノミープロジェクト立ち上げに参画しながら、現在はラグジュアリーブランドを中心に日本市場戦略を担当。

(写真右)

電通ジャパン・インターナショナルブランズ
メディアパートナーシップチーム アソシエイトディレクター
スティーブン・リョウ氏

香港のGoogle、dentsuに勤務し、2023年に電通ジャパン・インターナショナルブランズに入社。グローバルとローカルのソリューションを評価・導入する役割を担い、アテンションエコノミープロジェクトでは日本市場特化の調査分析を主導。

ジョシュア:アテンションは、広告主がテレビや雑誌などのマスメディアからデジタルメディアへとシフトし始めるとともに重要度が高まってきた指標です。デジタルメディアは視聴環境やフォーマット、視聴態度が異なるメディアが多く存在するため、広告の表示回数 (インプレッション) に対する実際の広告効果がわかりにくいという課題がありました。そこで「アテンション」という指標が注目されるようになったのです。

スティーブン:現代人は、テレビを見ながらスマホを操作したり、タブレットを見たりと、マルチタスクですよね。そんなマルチタスクの状態でメディア視聴が行われる中、広告が実際に目に留まっているのかどうか、視聴者の真のエンゲージメントを把握するために、アテンション指標が必要になったのです。

━━インプレッションとアテンションの違いについて教えてください。

スティーブン:インプレッションは単に広告が表示された回数、つまり「見られるであろう回数」です。一方、アテンションは「広告に実際に注意が向けられている時間」を意味します。これは人が広告を本当に見て、その内容について考えたり反応したりする時間のことです。

 アテンションをわかりやすく数値化したのが「APM(Attention Per Mille)」です。これは1,000インプレッションあたりのアテンション秒数を表す指標です。異なるメディアチャネルやフォーマットのアテンション獲得力を横断的に比較でき、どのチャネルが最も効果的かを判断できるものです。

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スティーブン:さらに発展した指標としてACPM(Attention Cost Per Mille)があります。これはアテンション獲得にどれだけのコストがかかるかを示す指標で、コスト効率の良いメディアの選択にも役立ちます。

━━アテンションはどのように測定するのでしょうか。電通ジャパン・インターナショナルブランズ(以下、DJIB)の調査の場合ではどのような方法で行っていますか?

ジョシュア:モニターに広告を見ていただき、スマホのカメラで視聴者の目の動きや表情をAI技術で追跡します。端末の動きも記録しているので、スマホが横向きか縦向きかもわかります。そのように広告を見ている間の視聴者の反応を秒単位で追跡し、各広告のアテンションレベルを計算していくのです。

スティーブン:音声広告の場合は目の動きでは測れないので、DJIBとLumen Research社が集めた大量のデータをもとにした推測モデルを使用しており、端末の持ち方や音量変更、広告表示時間などの情報から、アテンション秒数を推定しています。この予測モデルの精度は79%と高い結果が出ています。

デジタル広告の効果的な指標として注目される「アテンション」

━━DJIBがアテンション研究に取り組み始めた背景を教えてください。

ジョシュア:2021年に、テレビCMを多く出稿していたお客様から質問されたことがきっかけでした。地上波テレビの視聴率が下がる中、デジタル広告への移行が必要だとわかっていても、デジタル広告が実施に見られているかどうかを測る良い指標がないためなかなか移行できない、という課題に対し、当時は答えがありませんでした。そんな時にグローバルチームと話す中で、アテンション研究の取り組みを知り、日本でのアテンションエコノミープロジェクトが開始されることになりました。

スティーブン:アテンションエコノミー自体は2016年頃に米国で始まりました。インプレッションやIASなどで計測可能なビューアビリティといった既存の指標では実際のユーザーの視聴行動を数値に反映できないという課題から、米国チームがより意味のある広告効果の測り方を探していたのです。DJIBがこの取り組みを日本に持ち込み、2023年から本格的にスタートしました。

━━日本国内の企業では、現状アテンションはどのように捉えられていますか?

ジョシュア:日本ではまだ比較的新しい概念ですが、急速に広がりつつあります。特にグローバル企業では、世界共通の指標としてアテンションを採用するケースが増えています。業種別で見ると、ラグジュアリーブランドや日用消費財のお客様が、特にアテンションに興味を示していますね。

アテンションをKPIとする企業も。Spotifyが調査に踏み切った狙いは?

スティーブン:ある日本のグローバルIT企業ではアテンションを既にKPIとして導入しています。そもそも日本ではアテンションを測れるメディアがまだ限られているという現状がありますが、グローバルの動向からしても、利用は広まっていくと見ています。今後は電通のプランニングツールにもアテンションデータを組み込む予定なので、ゆくゆくはお客様の要望に応じてアテンションベースのメディア選定ができるようになるでしょう

━━今回、Spotifyと共同でアテンション調査を行った背景を教えてください。

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スポティファイジャパン マーケティングサイエンスリード 原田桃子氏

調査会社のニールセン、Twitter(現X)でのリサーチ担当を経て、スポティファイジャパン マーケティングサイエンスリードに着任。BtoB向けマーケティングリサーチを中心に、Spotifyの広告価値を明らかにし、広告主の効果向上をサポートしている。

原田:Spotifyとしては、リーチやインプレッションといった従来指標だけでなく、Spotifyの本当の広告価値を明らかにしたいと考えていました。特に、広告に対するユーザーの受容度が高いというSpotifyならではの強みをデータで証明できないかと思っていたところ、DJIBさんのアテンションエコノミーの取り組みを知り、ぜひSpotify広告でも検証してほしいと思ったことがきっかけです。米国でのアテンション研究でもSpotifyがパートナーとして参加していたという経緯もあり、今回の協力が実現しました。

スティーブン:Spotifyは日本国内でも大きな音楽プラットフォームですし、音楽ストリーミング広告の市場もここ5〜10年で大きく伸びています。そこで、スポティファイジャパンと協力して音楽ストリーミング以外のメディアの結果も含む包括的なレポートを作ろうと考えました。

━━調査はどのように実施したのでしょうか。

スティーブン:今回は、Spotify Freeプランを日常的に利用している18歳以上の日本のユーザー303名を対象に、30分間のオンライン調査を実施しました。参加者には、通常の使用感に近づけるため模擬的なSpotifyの画面からプレイリストを聴いていただき、最初に2本の動画広告と、プレイリスト再生中に4本の音声広告を流しました。その後アンケート調査も行い、ブランド認知や気分についてもヒアリングしています。広告は日用品、IT、金融など様々なカテゴリーを横断して用いました。

インストリーム広告、SNS広告よりもアテンション維持率が高い

━━調査結果について、特に印象的だった点を教えてください。

スティーブン:全体的に見て、Spotifyでは音声広告と動画広告の両方で、視聴者が高いレベルのアテンションを維持していることがわかりました。動画広告は他プラットフォームのインストリーム広告と比べて2.9倍、SNS広告と比べて5.1倍のアテンションを獲得音声広告もインストリーム広告と比べて2.3倍、SNS広告と比べて4.2倍の高いスコアでした。

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原田:アテンションの推移を見ると、他メディアでは広告の最初の1〜3秒でユーザーの注目度が急激に下がるのですが、Spotifyの場合は音声も動画も、アテンションが長く続くという特徴があります。これはSpotifyの大きな強みだと思います。

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原田:Spotifyの広告はスキップできない形式ですが、他のスキップ不可のメディアと比べても約2倍以上のアテンション秒数を達成していました。つまり、単にスキップできず強制的に広告を見聞きさせられるためアテンション秒数が長くなるというわけではないと考えられます。

━━ブランドリフトに関する結果はいかがでしたか。

原田:ブランド想起リフトに関しては、音声広告で+25%、動画広告で+27%という結果が出ました。これは他のメディアと比較しても良好な数字です。

 新たな発見だったのは、ユーザーがポジティブな気分でオーディオを聴いている時には、ブランド想起が8ポイント向上するという点です。ユーザーの気分に合わせたターゲティングや、気分に寄り添ったクリエイティブを作ることで、Spotify内でのアテンション効果をさらに高められると思います。

コンテンツ、ユーザー体験、プラットフォームがSpotifyの強み

━━Spotifyが高いアテンションを獲得できる要因について、どのように分析していますか?

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原田:主に2つの要因があると考えています。1つ目は、ポジティブな視聴態度と没入感の高さです。Spotifyユーザーは気分を上げたい時や集中したい時に音楽やポッドキャストを選ぶことが多く、自然と広告への意識も向きやすくなります。

 2つ目は広告に対するユーザーの高い受容度です。85%のユーザーがSpotify広告は「押し付けがましくない」と答えるなど、他メディアでよく見られる広告ストレスがSpotifyでは少なく、そのためメッセージが伝わりやすいと考えています。

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スティーブン:広告会社の視点で見ると、Spotify上のコンテンツは価値が高く、それらを見聞きするためには、ユーザーは少しの間であれば広告が気にならないと考えるのではないかと思います。また、動画は全画面表示、音声は没入感のある聴き方ができるといったSpotifyの体験の質の高さにも起因していると考えますコンテンツ、体験、プラットフォームが良いからこそ、ユーザーはSpotifyの広告に対してポジティブな姿勢を持っているのです。

 3つ目として、Spotify広告をスキップするには、アプリを閉じて再び開き、プレイリストに戻り、聴きたい曲を選び直す必要があります。この手間の大きさが、ユーザーをアプリ内に留めている要因でもあります。コンテンツ、体験、プラットフォームが良いからこそ、ユーザーはSpotifyの広告に対してポジティブな姿勢を持っているのです。

アテンションという評価軸で「広告=うっとうしいもの」が変わる

━━アテンションが評価指標として浸透していく中、デジタル広告やプランニングの未来についてどのようにお考えですか。

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ジョシュア:アテンションの浸透で、広告はより良くなっていくはずです。現代人の多くが広告ブロッカーを使ったり、データ追跡を拒否したりしていますが、それはデジタル広告がうっとうしいものであると感じられてしまっているからです。アテンションが採用されれば、広告の表示場所やフォーマットに合わせたクリエイティブ制作や、より興味深いストーリーテリングが重視されるようになります。

 マーケターは「この広告は見たいと思えるほどおもしろいか」を考えるようになり、結果として消費者のデジタル広告への印象も良くなるでしょう。

スティーブン:アテンションという考え方と指標は、世界でも日本でも、将来的にメディアプランニングとその評価、最適化の基盤になると思います。そうなる未来を見越して、マーケターの皆さんには、できるだけ早くアテンション測定を始めて、ベンチマークを溜め始めることをおすすめします。アテンションエコノミー研究の次のステップとしては、まだ調査していないデジタルチャネルや、TV・OOHなどのオフラインチャネルの計測へも拡大していく予定です。

原田:アテンションはまだ日本では比較的新しい概念ですが、DJIBさんが日本でアテンションエコノミーの検証を始めたことは、広告主の方々が新しい指標を取り入れるきっかけになると期待しています。今回の調査結果を踏まえて、メディアプランニングにおけるSpotifyの最適な役割についても引き続き検証していきたいと思います。

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この記事の著者

落合 真彩(オチアイ マアヤ)

教育系企業を経て、2016年よりフリーランスのライターに。Webメディアから紙書籍まで媒体問わず、マーケティング、広報、テクノロジー、経営者インタビューなど、ビジネス領域を中心に幅広く執筆。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:スポティファイジャパン株式会社

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2025/06/04 10:00 https://markezine.jp/article/detail/49000