音楽、食、旅などライフスタイルを軸にしたコミュニケーション戦略
MarkeZine編集部:ターゲット含有の高い場所に出向き、接点を作っていく施策について、具体的にイメージできる例はありますか?
遠藤:たとえば、2024年に麻布台ヒルズで開催されたクリスマスマーケットで、ベントレーの車を1ヵ月展示するポップアップを行いました。シャネルやエルメスと並んでベントレーが展示してあり、ラグジュアリーな雰囲気を好む方々にリーチできる場として、最適だったと思います。

以前は自動車メディアやサーキットでのイベントなど、車そのものに興味のある方へのPR施策を実施していましたが、2024年頃からCXに注目し、音楽、食、旅、アートなどのライフスタイルを軸に施策を企画するようになりました。
CX系の施策に加えて、オウンドメディアでのブランドコンテンツ作りにも力を入れています。良質なコンテンツでイメージを膨らませ、イベントで世界観を体験していただくことでベントレーを好きになっていただき、より深い1to1のコミュニケーションへお誘いするという流れです。
こうしたブランドコンテンツでもライフスタイルを軸にしたターゲティングを意識しています。たとえば、「カメラ好きのアントレプレナー」など複数のペルソナを設計しており、コンテンツ上では「カメラが趣味のアントレプレナーが撮影旅行に出かける時に乗る車がベントレー」という具合に、自然な形でベントレー車を登場させています。
マーケも営業も「コンシェルジュ」として、顧客満足にコミットする
MarkeZine編集部:話を伺っていると、顧客の解像度がとても高い印象を受けました。この理由や、ラグジュアリーブランドならではのマーケティングなどもうかがえますか。
遠藤:ベントレーの場合は、セールスからマーケティング、アフターサービスまで途切れることなく繋がっています。部署としては違っていても、「顧客満足」を軸にお客様のカスタマージャーニーを一気通貫で見ています。
というのも、ベントレーの年間販売台数は全世界で1.5万台ほど。販売台数を闇雲に増やすことは目的としていません。顧客満足度を最大限に引き上げた結果としてのLTVの最大化を一番に考えています。
そのため、お客様1人1人のニーズをしっかりと把握し、我々ができることを愚直に考え、提案し、実行しています。その循環で収益性が高まってくるからです。最適な提案のためには高い顧客解像度が必要ですから、お客様のもとへ出向き、ベントレーをお好きな理由やそのきっかけ、ドライビングの様子などを詳細に教えていただくことが多いです。いわゆる1to1のカスタマーサーベイですね。
また、新車の情報やメンテナンスのご案内はもちろん、ツーリングやプライベートディナーにお誘いしたり、ドライブに最適な音楽をご提案したりすることもあります。こうしたコミュニケーションは、百貨店の外商やコンシェルジュサービスに近いかもしれませんね。お車のカスタマイズももちろん可能で、「自宅のソファと同じ皮でシートを仕上げてほしい」といったリクエストにもお応えします。ブランド側の人間の抽斗の多さが勝負なので、人材は非常に重要です。

MarkeZine編集部:顧客から個別にニーズを吸い上げた後、1to1のコミュニケーションを俯瞰で見るためのデータマネジメントなどもされているのでしょうか?
遠藤:はい。当社独自のCRMシステムを構築し運用しています。お客様のプロファイル情報をはじめ、プリファレンス(お好み)や購入車両の履歴、家族構成、ソーシャルメディア上での活動まで、データを蓄積しています。それらを俯瞰で見て、次に何をご提案するのがベストかを各担当が考えています。今後はAIなども活用し、レコメンデーションの精度を上げていきたいですね。