「Temu」運営企業に見る、ミニアプリ時代の効果的な集客方法
続く第2の変化は、集客方式だ。従来のLINEの友だちを増やす主な手法は、広告や、日本の場合はスタンプキャンペーン、SNS運用、そして店頭スタッフに積極的な働きかけを促すことだろう。
ミニアプリ登場後の中国では、ゲーム性やバイラル性を重視したキャンペーンが主流となっている。たとえば、ECサイト「Temu」を運営するPDDホールディングスは自社システムを完全にミニアプリに移行。毎日十数本のゲームキャンペーンを継続的に展開する運営スタイルに転換した。

具体的には「毎日10名様に無料で最新モデルのiPhoneをプレゼント」といった案内を行い、初回来訪者には1回のチャンスを提供し、2回目以降は友達の紹介やミッションクリアを条件とする仕組みを構築した。友達がさらに他の友達を呼ぶバイラル効果により、わずか1年間で約1億人のMAUを実現。そして2018年、創業3年目にしてNASDAQ上場を果たし、時価総額は当時3兆円を超えた。現在はEC領域において世界第2位の地位を確立している。
中国における成功が、日本市場でも通用するのか。この問いに対し、宋氏は「確実にフィットする」と断言する。過去数年間、ハイブランドから小規模店舗まで、様々な業界・業態で数百件以上のゲームキャンペーンを実施してきた経験からも明らかだという。
「勝ちパターン」も変化するミニアプリ時代
ミニアプリがもたらす第3の変化は、戦略と勝ちパターンだ。従来のLINE運用といえば、配信とOne to Oneのチャットが主流であった。しかし、これらの手法にはコスト面などに課題がある。加えて、効果測定においても多くの企業が中間KPIやエンゲージメントに留まってしまう傾向もある。クリック数や閲覧数に焦点を当てるものの、どのようなユーザーがクリックしたかという情報すら把握していない企業も存在するのが現状だと宋氏は指摘した。
ミニアプリでは、最初からCV、友だち紹介、リピート利用をゴールに設定しており、そのための行動を促す仕組みのデザインやPDCAを回すことが重要となる。

具体例として紹介されたのは、中国において数百の店舗規模をもち、グローバル展開もしていた飲食店企業の事例だ。同社はミニアプリの仕組みをデザインする際、ユーザーの属性情報や行動情報を詳細に分析。その結果、来店者の過半数がトップ3の商品を常に注文していることが判明した。また、健康志向の顧客が比較的多い他、朝食目的での来店者も相当数存在することもわかった。
これらの分析結果を受けて、3パターンのサブスクリプション形式の会員制度を構築した。まず、定番商品を注文する顧客に対して、月額300円程度の支払いで毎回来店時にトップ3商品が常に10%オフとなる制度を、そして健康志向の顧客や朝食目的の顧客向けに、専用のスペシャルメニューや特別割引を同様に提供した。
また、競合との差別化と継続的な来店促進のため、毎週月曜日を「会員の日」として設定。会員にクーポンを1週間分配布する仕組みを導入した。さらに、曜日別で異なるクーポンを受け取れる設計にしたのだ。
このような仕組みをミニアプリで実装する際の工夫点として、すべての料金表示の下に会員価格を明示し、メニュー一覧では会員限定メニューを目立つ位置に配置したことを氏は紹介した。加えて、ユーザーがレジで会計する際、合計金額表示画面の上にポップアップを表示し「今、会員になれば200円割引が適用される」旨を訴求した。
これらの施策により、わずか1年間で来店リピート率を約2.5倍、売り上げも約2倍まで引き上げることに成功した。店舗数を増加させることなく、かつ大規模な配信も行わない環境下での結果だ。