何を根拠にどう意思決定すべきか
ここまで見てきたように、ブランド間での比較では、自社が市場の中でどのような立ち位置にあるのか、つまり「他ブランドと比べて優れている点・劣っている点」が明らかになります。一方で、時系列による比較では、過去と現在を比べることで「自社の状態が良化しているのか、悪化しているのか」、すなわち変化の方向性を読み解くことができます。この2つの視点を組み合わせることで、「どこが重点領域であり、どこにリスクが潜んでいるのか」をより正しく捉えることが可能になります。
たとえば、あるブランドが市場平均と比べて購入率(間口)が低く、かつ前年と比べても悪化しているとすれば、それは単なる市場トレンドではなく、マーケティング戦略上の構造的な問題を抱えている可能性があります。そうであれば、認知や導入率を高めるための施策を優先的に検討すべきでしょう。
一方で、間口は変わらなくとも、奥行き指標(購入頻度や金額)が伸びているブランドがあれば、既存顧客のロイヤリティが高まっている兆候と読み取れます。その場合は、新規よりも既存顧客向けの深耕施策を強化するほうが、投資効率の良い選択となり得ます。
このように、「相対比較×時系列比較」の両軸をもとにデータを読むことで、単なる数値の良し悪しにとどまらず、その背景や打ち手の優先順位にまで踏み込んだ判断ができるようになります。
さらに詳細を分析するには? コーホート分析の活用
今回のように、間口と奥行きの2軸でブランドや商品の現在地を把握することは非常に有効です。実際にエイトハンドレッドでも、ご支援の初期段階には、クライアント様の現状や立ち位置を正確に理解するために、こうした分析を丁寧に行うことが多いです。
そこで得られた知見をさらに深めていくには様々な方向性がありますが、どの間口が効率的なのかを検討することは、限りあるマーケティング活動資源を有効活用するためにも非常に重要です。そこで紹介したいのが、「コーホート分析」です。
コーホート分析とは、ユーザーを特定の条件(コーホート)で分け、その行動を時間軸で追跡する手法です。この考え方を活用することで、「どのような間口から入ってきた顧客が、その後どのように奥行きを成長させるのか」を把握することが可能になります。
たとえば、「特定の商品」を初回購入としてブランドに接触した顧客を対象に、その後の購買継続率の推移を月次で追った分析を考えてみます(図表6)。

ブランドAで入ってきた顧客は1年後にも高い維持率にある一方、ブランドCから入った顧客は2~4ヵ月で既に半数以上が離脱するといった傾向が明確に見えてきます。もちろんボリュームなど、他の要素も加味することが必要ですが、ブランドAを初回接点として顧客と関係構築をするのは良さそうな打ち手だと考えられます。このように、「育ちやすい間口」がどこにあるのかを定量的に評価することができます。
コーホート分析を取り入れることで、間口の質や奥行きの伸びしろを時間軸で可視化でき、ブランド戦略やCRM設計において、より精緻な意思決定が可能になります。間口と奥行きを独立して見るだけではわからなかった、顧客の成長ストーリーを解像度高く描くための一助になるでしょう。
購入人数や購入単価といった指標は、多くの方にとって日頃から目にしている、馴染みのある数値かもしれません。しかし、それらの指標を単体で眺めるだけでは、マーケティング上の本質的な示唆を得ることは難しいのが実際です。重要なのは、それらをどのような視点で捉え、何と比較し、どのような意思決定につなげていくかという点にあります。
まずは、QPRやお手元のデータを活用し、「間口」と「奥行き」という視点から、自社の商品・サービスがどのように購買されているのかを、市場や時系列で比較しながら見てみてください。日々追っている指標の背後に、新たな解釈と打ち手のヒントが見えてくるはずです。