「AIを使う」は「Excelを使う」に等しい当たり前に
━━企業がマーケティングへのAI活用を推進するために、何から着手すべきでしょうか。
マーケティング領域に限らず、シンプルに「教育」だと思います。AIについて学び、教えることです。

たとえば、ソフトバンクの孫社長が全社員にAI使用を必須とし、ChatGPTのOpenAIと契約して業務での活用を義務付けましたよね。これは社員に学習を促すねらいがあります。
一方で大手企業でも、ChatGPTやCopilotと契約しているにもかかわらず、実際に使用しているのは一部の社員のみだと聞きます。「クリエイティブな仕事にAIなんて」という反発や、ITリテラシーの不足で使えない社員もいるようです。
しかし今現在、Excelを使ったことがない社会人はほとんどいないでしょう。それと同じように、AIツールも社会人にとって基本的なスキルになっていくはずです。
━━AI教育を進めるためには、何が必要なのでしょうか。
まずは使ってみて、学習することに尽きます。使ってみなければ、自社のマーケティングでどう活用するかわかるはずがありませんから。
以前、ある旅行会社のコンサルティングを担当した際、広告経由のコンバージョン向上をミッションとしていたのですが、Webサイト自体のユーザー導線が悪く、広告費を投じてもコンバージョンしにくい状況であると判断し、私はWebサイトの改修を提案しました。
ところが、役員の方たちは自社のWebサイトやアプリを使ったことがなかったのです。結果として、何が良いか悪いかを判断できず、稟議が通らないという事態が発生しました。
これとまったく同じ状況が、現在のAIツールでも起きています。多くの企業の社長が、CopilotもChatGPTも使用していないと推測されます。
━━リーダー層の意識改革が必要ということですね。
教育の本質は、常に最先端を走る気概を持つかどうかということです。これは日本の課題でもあります。最近はリスキリングが話題になっていますが、そもそもIT業界は常にリスキリングが必要とされてきたので、それが「当たり前」なのですね。
すべての業界にITやAIが入っていっている以上、以前は新しいことを学ばなくても通用していた業界も、そうした時代ではなくなってきていると思います。
ファーストパーティデータを保有するという圧倒的な強み
━━今後の展望について教えてください。
先ほどの話と重複しますが、アプリケーションレイヤーが最も大きく変化します。この状況では、戦略は各社の組み合わせによって決まります。
たとえば、Appleは人気の高いモバイルOSを保有していますが、法人向けクラウドサーバーを持たず、今後のアプリケーションレイヤーの表側となるAIサービスを提供していません。Amazonはクラウドサーバーを保有している一方、顧客体験の入口についてはアプリケーションレイヤーの変化にともなって現状のECサイト、モバイルアプリから新たな在り方を模索する可能性もあるでしょう。このような状況では各社が勝負をかけるポイントが変わってくると考えています。

━━Microsoftの優位性はどこにあるのでしょうか。
アプリケーションレイヤーの競争において、ファーストパーティデータは当然ながら重要な要素です。Microsoftはまさにファーストパーティデータに圧倒的な強みがあります。なぜなら多くのユーザーがMicrosoftの製品を利用しているからです。また、そもそもAIが積極的に使用されるシーンはプライベートよりも仕事の場が多くなるというのも強みでしょう。ユーザーが多いだけでなく、仕事のツールやパートナーとして他のプラットフォーマーにも選ばれている。「プラットフォーマーの中のプラットフォーマー」であるMicrosoftだから様々なファーストパーティデータを集められます。
歴史を振り返ってみると、インターネット広告が現在の検索連動型広告の形に近づくまでに7〜8年かかりました。AI広告も同様に、まだ数年間は様々なテスト段階が続くでしょう。ChatGPTが2022年11月に登場し、Copilotでの広告表示が本格的に始まったのが2024年からと考えると、まだ1年半程度です。Microsoft広告も引き続き、データを蓄積し、Copilotの改善を進め、その中での広告配信も最適化していきます。
各プラットフォーマーの強みやファーストパーティデータの得やすさなどを考慮し、AI広告がまだ数年間のテスト期間を要することを踏まえると、Microsoftは非常に有利なポジションにいると考えています。
