プロモーション施策は本当に売り上げにつながっている?効果検証できない苦悩
MarkeZine編集部(以下、MZ):今回は、森永乳業・東急ストア・グローリーの3社による「データコネクティングサービス」を活用した取り組みについてうかがいます。まず取り組みの背景として、森永乳業が抱えていた課題を教えてください。
長谷川(森永乳業):メーカーとして大きく2つの課題がありました。1つは、小売店と顧客について同じ目線で会話をする必要がある点です。小売店は顧客との距離が近いことから、データを収集しやすくより詳細な分析が可能なため、私たちメーカーも顧客理解の精度を高める必要があると感じていました。もう1つは、自社が持つ顧客接点を有効活用できていない点。当社はECサイト、牛乳宅配、LINE公式アカウントなど複数の接点があるものの、同一顧客を統合的に把握できていませんでした。
こうした課題に対して、顧客情報データベースを構築しLINEを活用したコミュニケーションを始めたものの、社内からは「本当に投資価値があるのか」「実際に購買につながっているのか」という声が常についてまわりました。リアル店舗での売り上げ効果をどう検証すべきか悩んでいたところ、Retail Media Summit 2024に参加した際にグローリーのデータコネクティングサービスを知りました。
このサービスなら、当社の公式LINEアカウントでのコミュニケーションが実際の購買にどのようにつながったかを追跡できます。私たちが求めていたOne to Oneマーケティングの効果検証が可能になると考え導入に至りました。2025年7月より、実際に取り組みをスタートしています。

2004年に森永乳業に入社し、営業部門で小売店営業を経験した後、業績管理や販売施策の立案に従事。2020年に営業企画部に異動後は、営業・マーケティングDXの推進を担う。顧客情報データベースの構築やLINE公式アカウントの運用を手がける中「データコネクティングサービス」を導入し、取り組みの社内理解や促進、体制などの推進環境の整備を行っている。
白坂(森永乳業):私も「効果の可視化」という点に強い課題感を持っていました。営業現場に長くいた経験から、商談時の苦労は本当に大きいと実感します。お客様に「この商品は本当に売れます」と伝えたくても、データという裏付けがないと説得力に欠けてしまいます。「こういった広告を打ちます」「SNSで配信します」といった施策の説明だけでなく、どれだけ売り上げに貢献するのか具体的な数値で示す必要がありました。
社内でもっとデータを整備するべきだと感じていましたし、営業担当者が自信を持って提案できる効果を数値化した資料があればどんなに心強いか。そういう意味で、今回の取り組みはまさに現場が求めていたものだと感じています。

2003年森永乳業に入社。複数の営業部門で現場経験を積み、2024年から営業企画部の戦略推進グループに所属。データコネクティングサービスにおいては、実務面の推進運用を担当する。社内連携の調整から、実際のデータ分析まで、施策の実行部分を担う。
配信から店舗購入まで、購買ジャーニーの完全可視化を目指す
MZ:お取り組みの全体像を教えていただけますか。
山口(東急ストア):森永乳業の会員IDと東急ストアの会員IDを、データコネクティングサービスを介して連携させるものです。これにより、これまで断絶していたデジタルコミュニケーションと実店舗での購買行動を、一つのIDでつなげることが可能になりました。具体的には、LINEで新商品の情報を受け取ったお客様が、いつ、どの店舗で実際に購入したのか、という一連の行動を把握できるようになります。


山口(東急ストア):この取り組みにおいて、東急ストアは単なるデータ提供者ではなく、顧客とメーカーをつなぐデータプラットフォーマーとしての役割も担っています。購買データの提供、顧客接点の実現、そして共創パートナーとして、お客様の体験価値向上に貢献する“翻訳者”の立ち位置と捉えています。

1999年に東急ストアに入社し、情報システム部で約20年間システム開発や運用に携わる。2023年に営業部門に異動し、現在はMD企画部マーケティング課長として、リテールメディア戦略の一環であるデータコネクティングサービスの構築を推進する。
山口(東急ストア):メーカーにとっては施策効果を明確に検証でき、我々リテール側もLINEを起点とした送客効果を確認できる。さらに、配信後の購買動向をPOSデータで定量的に把握できるため、単なる販促を超えて、お客様がどのように商品と出会い店舗に足を運ぶのかというジャーニー全体を可視化できるようになりました。