「グルテンフリーといえばZENB」にたどり着くまで
現在はZENB購入者の最も多い理由として挙げられるのが「グルテンフリー」だという。様々な顧客便益やニーズがある中で、ZENBがグルテンフリーに目をつけた理由はどこにあるのか。
「『ZENBヌードルは豆を使った麺を開発した』というシーズが先にあったブランドです。そのため、糖質が少ない、タンパク質が多い、食物繊維が多いなど、様々な訴求の広告を展開しました。その中でお客様の反応がよかったのがグルテンフリーだったのです。日本でも、『何となく感じる体の不調を解消したい』というインサイトに対して、解決方法としてのグルテンフリーが広がりつつあったことも影響したのかもしれません」(田中氏)
この話を受け、モデレーターの田岡氏は「デジタル広告の検証を通じて最も響く訴求が『グルテンフリー』だと発見した点が非常に興味深い」とコメント。さらに、「見つけて終わりではなく、それを自社の戦うべきカテゴリーとして定め、市場ごと成長させようとしている点がZENBの強さであることがわかりました」と続けた。

インサイトを力に、次なるステージへ
最後に、さらなるブランド成長に向けてどのような取り組みが必要かについて問われた両者は、次のように語った。
カンロが挙げたのは「体験価値の深化」「共創・コミュニティ形成」の2つ。
カンロは、ピュレグミや金のミルクが同社商品であることの認知度が低いことに課題を感じており、「カンロだから買う」というブランド力が必要と考えている。そのため、カンロ全体のブランディングを通じて安心感、信頼性、企業イメージを強化し、コーポレートブランドと商品ブランドを結びつける「カンロ箱推し作戦」を進めている。今後は共創・コミュニティ形成によるマーケティングの民主化を目指し、一方的な発信ではなく、インサイトを顧客と共に見つけていく取り組みを進めていくとした。

ZENBは、グルテンフリー市場は成長しているものの、ストイックさが求められるといったイメージがあり、顧客の母数が限定的であることに課題を感じている。そのため、グルテンフリーカテゴリーの裾野を広げ、エントリープライスで健康志向のライト層にアプローチする予定である。
9月に発売されたスナック菓子「ZENB HAPPEA(ゼンブハッピー)」は、グルテンフリーや栄養機能は全面に出さずに、ポップでキャッチ―な世界観を中心に据え、「食べてみたら実はグルテンフリーだった、カラダに良いものだった」というように強弱をつけた。
その際、お菓子は自分の生活にプラスアルファの豊かさを提供してくれるものなので『おいしそうだったり、ワクワクするものを選びたい』というインサイトを捉え、生活の基礎を作る主食と比較すると、コミュニケーションの強弱を変えるべきである、と考えたという。

明日から活かせる、インサイト活用のヒント
セッションの最後に、モデレーターの田岡氏が議論を総括。成功の裏側にあるインサイト活用の本質は、3つのポイントに集約されると語った。
第一に、インサイトは「現場」にあるということだ。「インサイトというと難しいイメージがあり、どうしても会議室で議論しがちですが、そこに顧客はいません」と田岡氏は指摘。カンロのグミッツェルのように、顧客と接する店舗の日報に眠っていたヒントを、SNSという顧客の声が集まる場所で確信に変えた事例こそ、その証明であるとした。
第二に、企業の「シーズ(技術やビジョン)」と顧客の「ニーズ(便益)」を諦めずにつなぐことの重要性だ。ZENBが「地球視点」という壮大なビジョンから出発しつつも、広告テストなどの地道な検証を通じて「グルテンフリー」という顧客が求める最大の便益を見つけ出したように、両者を接続させるプロセスが成功の鍵となる。
そして最も重要なのは、と田岡氏は続ける。
「両ブランドに共通しているのは、発見したインサイトをもとに、商品だけでなく『カテゴリーそのもの』をしっかり進化させていることです。グミもグルテンフリーも、両社が牽引することで進化し続け、市場全体が伸びている。これこそがインサイト活用の目指すべき姿ではないでしょうか」(田岡氏)と述べ、セッションを締めくくった。