思考‧対話‧実行の各フェーズで役立つ、CABフレーム
LTV最大化の実現には、現状と理想の間にある「課題」を正確に特定し、そこに最適な「打ち手」を接続することが不可欠である。富家氏はまず、この「課題」の定義について、極めて重要な点を指摘する。
「マーケティング業務における課題とは、『個人的に気になること』や『やったほうがいいと思うこと』ではありません。課題とは、現状と、掲げるべき理想との『ギャップ』そのものです。ステークホルダー間で意見が合わない根本原因は、多くの場合、この『理想状態』の認識がずれている点にあります。まず理想を定め、課題を正しく設定すること。それが成果への第一歩です」(富家氏)

つまり、施策レベルでの対立や議論のすれ違いは、その前提となる「理想状態」のコンセンサスが形成されていないことに起因するのだ。
この根源的な問題を解決し、合意形成を円滑に進めるために考案されたのが、思考と対話のツール「CABフレーム」である。CABフレームは、以下の3つの要素で構成され、施策の全体像と優先度を構造的に整理することで、組織の意思決定を支援する。
- C(Category/施策区分):散在しがちな施策を「目的」によって分類し、全体像を俯瞰可能にする。
- A(Achievement/達成度):各区分の現状を客観的に評価し、注力すべき課題を可視化する。
- B(Balance/比重):評価に基づき、限られたリソースをどこに集中させるか、組織としての戦略的な意思(注力度)を定める。

「CAB」の各項目でやるべきこととは?
C (Category/施策区分):施策を「目的」別に分類する
最初の項目「施策区分(Category)」は、BtoBマーケティング組織の施策を目的別に分類したもので、ポジション形成、リード獲得、商談機会獲得、顧客獲得、オペレーション強化の5種類が存在する。目的別に分類することで施策全体を俯瞰でき、マーケティング専門外の上司や経営層にも全体像が把握しやすくなる。

A (Achievement/達成度):現在地を客観的に評価する
次に、分類した5つの施策区分ごとに、その現状の「達成度」を客観的に評価する。評価は、以下の2つの観点からS〜Dの5段階で行う。
- 観点(1)戦略と実行:目的を達成するための計画が存在し、それを遂行する実行力の質も担保されているか。
- 観点(2)仕組みと成果:その活動を組織として継続させ、安定的に成果を生むための土台ができているか。
この評価を通じて、チームの「現在地」を多角的に把握し、強みと弱点を可視化する。これにより、たとえば「『仕組み』は弱いが、『商談や顧客獲得』といった実行力は非常に強い」といったチームの特性が一目瞭然となる。

B (Balance/比重):組織の「意思」を定める
最後の要素が「比重(Balance)」である。これは、評価結果を踏まえ、組織として各施策区分にどの程度注力するか、その戦略的な意思を決定するプロセスだ。
重要なのは、これが単なる予算や人員といったリソース配分ではなく、「どこに重点を置くか」という組織の意思表明そのものである点だ。たとえば「営業主導型」の組織であれば、以下のような戦略プランが議論の対象となる。
- プラン1:弱みである「ポジション形成」と「オペレーション強化」に注力し、基盤を固める。
- プラン2:強みである「商談機会獲得」をさらに強化し、成果を最大化する。
- プラン3:既存顧客のアップセル・クロスセルを進めながら、新規の「リード獲得」に注力する。

マーケターが描く比重案と、経営層の考えが異なることは少なくない。富家氏は、「だからこそ、この『比重』を明確に言語化し、議論の土台に乗せることに価値があります。これにより初めて、短期的な成果と中長期的な投資の両立を目指す、建設的な対話が生まれるのです」と、その本質を強調した。