広告を止めると、売上・シェアはどう変化するのか?
次に芹澤氏が挙げたのは「広告をやめると、売上やシェアはどう変わるか」というテーマ。
「広告を出してもすぐに売上は増えないし、逆に広告を止めてもすぐには減らない。それならば広告は不要だ」という広告不要論は昔からあるが、実際はどうなのだろうか。

これについても近年の研究から答えが見えている。広告を止めた年の売上を基準とすると、広告を1年出さなかった時の売上は平均-16%、2年出さないと-25%、3年出さないと-36%になる。シェアに関しては、広告を1年出さないと平均-10%、2年で-20%、3年で-28%になるそうだ。
広告を止めても急激に売上やシェアが落ちるわけではないが、やはり中長期的には減っていく。小規模のブランドや既に衰退気味のブランドはよりその傾向が強い。
広告弾力性の研究からも、同じことが言える。広告弾力性とは、広告費あるいは広告量の変化率に対する売上の変化率の比を指す。代表的なメタ研究では、広告の弾力性は短期で0.1、長期で0.2程度と報告されている。

つまり、商品のカテゴリやライフサイクルによって違いはあるが、広告を10%増やしても短期的には1%程度の売上増加しか見込めない。より近年の研究では、テレビCMの広告弾力性は0.01~0.02という報告もある。これを額面通りに解釈すると、テレビCMを2倍にしても売上は1~2%しか増えないということになる。
「ならば広告を投下しても意味がないではないか」と思われるかもしれないが、そう単純な話でもない。
広告は「5%の顕在層」ではなく「95%の未顧客層」に効かせるもの
そもそも広告は、短期的な売上を増やすために行うものではない。では、何のために広告を出すのか――第一には既出のとおり、現在の売上のベースラインを維持するため。そしてもう1つ重要なのが「将来のキャッシュフローをつくるため」である。短期成果ではなく、中長期的な時間軸でブランドに投資をする必要があるということだ。
このことを理解する際に役立つのが、南オーストラリア大学アレンバーグ・バス研究所のジョン・ドーズ教授が提唱する「95:5ルール」である。すなわち、カスタマージャーニーの中で需要が発生する期間は5%程度に過ぎず、残りの95%は正味のところ「未顧客期間」となる。
要するに、ある任意の時点で購買の可能性があるインマーケットの顧客は全体の数%しかいない。どのカテゴリの商品やサービスでも、インマーケット率は2~8%程度(あるいはそれ以下)にとどまるという。
そして、近年の大規模な実証研究によると、消費者のブランド選択の8割以上はこの95%の未顧客期間に決まってしまう。意識的にしろ無意識にしろ、需要が発生した時点で選ぶブランドが既に決まっているケースが大半なのだ。
「ゆえに、現在は需要がない人や、買うかどうかわからない人に対して前もって認知形成あるいは想起形成しておく必要があり、それに最も適したマーケティングツールが広告だということです。特にマス広告のように母集団全体のベースレート(認知や想起)を高めるメディアは、それ自体の短期効果は小さくても、中長期的に他の広告や施策の効果を高める乗数的な効果があることがわかっています」(芹澤氏)
逆に言えば、そうしたベースレート増加を疎かにして、各施策の中だけでターゲティングの精度やクリエイティブの改善などを進めても、効果に限界があるということだ。
実際、特定のマイクロターゲットに絞り込み、ROAS(広告費用対効果)をKPIとして短期的な売上リフトばかり追求していると、徐々にどのような施策をしてもたいして効かなくなり、売上のベースラインが下がっていくという。芹澤氏は、大手ブランドでもこの短期主義の罠に陥ったケースは多いと指摘する。
一方、ブランドの認知・想起に対して広く事前投資をしておくと、すぐに効果は出なくても徐々に様々な短期施策(販促やパフォーマンスマーケティング)が効率的に効くようになってくる。その結果、売上のベースラインが上昇し、中長期的には大きな成長につながる。

 
                    
                     
                    
                     
                    
                     
                    
                     
                    
                     
                    
                     
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                    
                                     
                                    
                                     
                                    
                                     
                                    
                                     
                                    
                                     
                                    
                                     
                                
                                 
                                
                                 
              
            