AIは“人間の代替”ではなく“思考の増幅器”
「Day 2 Creativity Keynote(クリエイティビティ基調講演)——Anthropicが語ったAIとの向き合い方と広告への示唆」では、「How I Built This」で知られるジャーナリストGuy Raz氏の司会のもと、AnthropicのDaniel Rosenthal氏が登壇し、AIと人間の関係性について議論が交わされた。このセッションの核心は、AIの進化そのもの以上に、「AIをどのような姿勢で使うべきか」であった。
AnthropicはClaudeモデルの開発元であり、安全性・透明性・信頼性を中心に据えたAI開発を行う。Daniel氏は、AIの役割を「人間の思考を増幅し、より難しい問題に取り組めるようにすること」と説明した。たとえば彼は、ユーザー分析の結果として、全利用者の約15%が“本業の高度な課題解決”にClaudeを使っていることに触れ、AIが単なる作業代行ではなく“新しい挑戦のための伴走者”になりつつあると語った。
また、AIを用いたクリエイティブ制作に関する実例も紹介された。Anthropicのブランドキャンペーン「Keep Thinking」では、Claudeが市場分析やメッセージ検討を支援し、人間のクリエイティブチームがその上に発想を重ねて仕上げたという。生成したものをそのまま使うのではなく、人間の判断と文脈理解が最終的な価値を生むという姿勢が強調されていた。
日本の広告現場にとって重要なのは、AIの導入を「作業効率化」だけの議論で終わらせないことだ。むしろ、AIに任せられる領域を明確に切り出し、空いた時間を戦略設計・ブランド体験の定義・仮説検証に振り向けることこそが競争力になる。Daniel氏が語った「実験を恐れず、しかし最終判断は人間が担う」という姿勢は、広告運用のAIシフトが加速する日本企業にとって大きなヒントになる。
“AI前提の運用体制”をいかに早く描けるかが分岐点
unBoxed 2025で示されたのは、AIを活用した新しい広告プロダクトの羅列ではなく、広告運用そのものの前提が変わるというメッセージだった。Full Funnel Campaigns、統合コンソール、Ads Agent、DSP×検索シグナル、Creative Agent、そしてAnthropicとの協業はいずれも「AIが基盤となる時代の広告運用」を形づくっている。
読者の皆様にとっての問いは明確である。“AI前提で運用体制を再設計する準備はできているか?”。日次のオペレーションをAIに引き渡し、人間はより上位の判断に時間を使う構造へ移れるかどうかが、今後のフルファネル戦略とブランド成長の分岐点になるのではないか。
後編では、Amazon Marketing Cloud(AMC)とDSPのシグナル活用を中心に、“勘と単発ROAS”から脱却するための実践的なアプローチを掘り下げる。
