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MarkeZine Day 2026 Spring

事業と人を成長させる「強み」起点のマーケティング思考

なぜ、広告予算が同じでもシェアを奪われ続けたのか?──リクルート時代の敗北と逆転に学ぶ「課題設定力」

解決策に飛びつくな。「HOW思考」の罠と、リクルート時代の失敗事例

 さて、ここまで「現象」「問題」「課題」の3分類を紹介しましたが、戦略を考える上では、ここに「対策」も加えて階層構造で整理すると、筋が通っているかが分かりやすくなります。対策まで一貫して整理することで、「その課題は解けるのか?」が見えるからです。

 言い換えると、「解決できないことを課題と捉えない」ことも重要です。解決できない課題を置いても、期限内に解決する戦略を実行できません。ビジネスには期限がある以上、対策の筋まで含めて整理するのが実務的です。私は次の4階層で整理します。

分類 内容
現象 目の前に起きている事象
問題 現象として起きているマイナスの事象
課題 時間軸が発生しており、構造的な再現性のある原因
対策 構造的な原因を生み出す課題を解消するための打ち手筋

 ここでは「打ち手筋」としていますが、対策を詳細に詰める必要はありません。解像度を極めるべきはあくまで「課題」であり、対策は方向性(=筋)が見えれば十分だからです。

 課題が定まる前に、すぐ対策を考えてしまうことを、私は「HOW思考」と呼んでいます。 マーケティングとは、市場に適応し価値を届けるための『一貫した取り組み』全体を指します。しかし、「マーケティング=プロモーション」と捉えていると、どうしても手っ取り早い手法(HOW)に目が行きがちです。重要なのは、徹底して課題に向き合うこと。HOWは最後の最後に考える癖をつけるよう強くお勧めします。

 私はかつて、思考の癖がつくまでは「HOW禁止」というルールを設けて議論していました。それくらい意識的に是正しないと、つい戦略ではなく解決策(戦術)を語りたくなってしまうものだからです。

 ここで、『ワニワニパニック』の例を4階層で置くと、こうなります。

分類 内容
現象 複数の穴からワニが素早く次々と出てくる
問題 ワニが出てきて引っ込むスピードが速く、叩けないこと
課題 ワニが穴から出てくるタイミングが読めないこと
対策 ワニが出てくるタイミング、パターン明らかにして読めるようにする

 課題が明確であれば、対策の解像度は現時点ではこの程度で十分です。大まかな対策筋を置き、「課題解決できそうな筋がある」と見立てられれば、解決できうる課題として課題設定できます。課題の構造化では、この4階層で整理した上で、課題設定を解像度高く言語化・数値化することが重要です。ぜひ実務でも試してみてください。

【実例】なぜ、広告予算が同じでもシェアを奪われ続けたのか?──リクルート時代の「敗北」と「逆転」

 では、前述の構造を実際の事例に当てはめてみましょう。私がリクルートでHR領域のマーケティングを担当していた頃の、少し簡略化したケーススタディです。

 担当していたのは、若年層向けアルバイト求人メディア。機能差がつきにくいコモディティ化した市場で、プロモーション投下量がシェアを左右する消耗戦に陥っていました。競合との投資額は拮抗しているにもかかわらず、トップシェアである自社の利用シェアは毎年2〜3%ずつ奪われている。これが最初に直面した「現象」であり「問題」でした。

 この市場の勝負を分けるのは「第一想起」です。カスタマーは「条件の良い求人」を逃さないよう複数サービスを併用しますが、応募などのアクションは「最初に開いたアプリ」で起きる確率が高い。つまり、併用前提の中で「最初に指名検索(ブランドクエリ)される存在」であり続けることが重要KPIでしたが、ここが競合に負け始めていたのです。

 そこで最初に立てた仮説は「投資配分のミス」です。競合はTVCMが目立っていたため、媒体費のアロケーションが違うのではと疑いました。しかし、調査の結果はシビアでした。予算配分はほぼ同額、むしろTVCM単体では自社の方が約5%多く投下していたのです。デジタル広告の効率にも差はありませんでした。

 次に疑ったのが「クリエイティブの質」です。調査指標を見ると、確かに直近のTVCM広告認知率が競合より5〜10%低い。「同じ金額を投下しているのに認知が取れていないのは、クリエイティブ(素材)が劣っているからだ」。そう考え、ひとまずここを課題と設定しました。

 この時点で整理すると、こうなります。

分類 内容
現象 2~3年の時系列で第一想起率とブランドクエリが毎年2~3ptずつ奪われている
問題 広告投資額に拮抗し、自社が毎年2~3ptカスタマーの利用シェアを奪われていること
課題 指名検索に影響するTVCMのクリエイティブで広告認知が5~10%劣後していること
対策 TVCMのクリエイティブをメインターゲットに最適化して広告認知を高める

 この整理に基づきCM素材を刷新しましたが、結果は「広告認知率は上がったが、肝心のKPIは改善しない」というものでした。「もっと素材を磨けば伸びるのでは」という声もありましたが、私は強い違和感を覚えました。カスタマーは直感でサービスを選んでいるはず。だとしたら、クリエイティブの良し悪しだけが決定打になるだろうか、と。

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10年分のデータを全分解して見えた「不都合な真実」と「逆転の鍵」

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この記事の著者

金井 統(カナイ オサム)

NexGen Inc. CEO
新卒でNTTドコモに入社。端末のマーケティングを経験した後、iモードでビジネス展開をする会社へのコンサルティングに従事。その後、リクルートへ転職。マーケティング室のVP(ヴァイスプレジデント)として、横断の人材育成・知見流通とHR領域のマーケティング責任者を担当。HR領域におけるToC及びToB双方のプロダクト横断での事業・マーケティング戦略、ブランディングからdirectADやSEO等のネットマーケティング、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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2026/02/02 09:00 https://markezine.jp/article/detail/50305

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