アクション・メディア(2)ビールメーカーと「店主の老後」
POKER BEER - RETIREMENT ACCOUNT
コロンビアでは、多くの小売店が家族で経営されています。毎日の生活と店の運営に追われ、将来の年金まで考える余裕がない店主も少なくありません。老後への不安は、この人たちにとって大きな問題でした。
そこで、コロンビアで親しまれているビールブランドであるポーカービール(Poker Beer)は「ビール年金口座」という仕組みを始めました。これは、店主がいつも通りビールを売るだけで、将来の年金が少しずつ貯まっていく仕組みです。
ビールを1本売るごとに、発注・管理システムを通してポイントが自動で記録され、そのポイントが年金の積立に回されます。これには特別な申し込みや手続きは必要なし。店主が普段使っている発注や売上の仕組みと、国の年金制度をつなげることで、販売の記録がそのまま年金に反映されるようにしました。
その結果、ビールを売るという日常の仕事は、目の前の収入を得るだけでなく、将来の安心を積み上げる行動へと変わりました。ポーカービールは、ただの商品を売るブランドではなく、店主の暮らしと将来を支える存在として、より小売業のビジネスと深く結びついたのです。
つながる仕組み、そのものがメディア
これらの事例が示しているのは、人が必ず通過する行動や判断の瞬間こそが、最も強いメディアになり得るという点です。
この2つの事例は広告で情報を広く届けることを選びませんでした。代わりに、レストランが経営を判断する瞬間や、店主が商品を売る日常行為といった、避けることのできない行動の中に入り込む仕組みをつくりました。その結果、iFoodは「使うほど価値を実感する存在」に、ポーカービールは「売るほど将来が守られる存在」になっています。
注意を集める場所を探すのではなく、人が必ず行う行動そのものをメディアとして設計する。それが、いまのメディアクリエイティビティの核心なのかもしれません。
改めて、メディアクリエイティビティとは何か
本記事では、ブランドと生活者の関係をつくる視点から、クリエイティブと一体化したメディアの考え方を整理しました。紹介したのは、次の3つの考え方です。
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メディアハック
人の注目が集まる瞬間を読み替え、話題から行動・購買までをつなぐ発想 -
カルチャーコネクター
物語や文化の中に入り込み、ブランドを参加者として機能させる考え方 -
アクション・メディア
使う・選ぶ・売るといった日常行動そのものをメディアとして設計する発想
これらに共通しているのは、広告を作ってから配信先を選ぶのではなく、最初から「どんなメディアで、どんな体験が生まれるか」を起点に発想と設計をしている点です。ここで言うメディアは、広告を流すための枠ではありません。人が感情を動かし、行動している場面そのものが、体験として機能するメディアです。
そうした体験の中に自然に入り込む表現は、数値の効率だけを追うメディアプランでは生まれにくい、生活者との実感あるつながりを生み出します。広告が気づかれにくくなった今、求められているのは配信の最適化ではなく、メディアそのものを体験として設計すること。メディアとクリエイティブを切り離さず考えることが、これからの広告に必要な視点なのかもしれません。
