アルゴリズムによって誘導される人々の嗜好
「嗜好のアルゴリズム化」は、 Atanasova氏の発表論文(2024年)の一節だ。この論文を深く読むと、おもしろいことに気づくという。
「一般的には、アルゴリズムによって、一人一人の嗜好に合った情報が提供されているように思われています。しかし実際はそうではない。確かにアルゴリズムに基づいて、嗜好に“近い”情報が提供されている。でもそれは嗜好と完全に一致したものではない。むしろ、アルゴリズムに基づいた提供情報に合わせて、その人の好みが形成されていくといったほうが正しいでしょう。
アルゴリズムによって提供された情報に、複数の人々が自分の嗜好をマッチさせることで、市場に『嗜好のまとまり』が形成されます。もちろんアルゴリズムが提供する情報にはいくつかのパターンがありますから、1つの大きなまとまりではなく、“いくつもの小さなまとまり”が形成される。これが『アルゴリズムによる嗜好の小さな一致』です。一時期よく耳にした『界隈』という現象も、こうした影響を受けていると思います」(久保田氏)
そして、「消費は“多様化”しているとよく言われます。しかし実際のところ、人々の好みは、それぞれのジャンルの中で1番良いとされているもの、あるいは人気だとされているものに集約して“一致”してきているのではないでしょうか」と久保田氏は続ける。
「昔から、テレビに代表されるマスメディアが取り上げるものにすべての人気が集中することはありました。一方、SNSに代表されるネットワーク型のコミュニケーション環境が浸透し、アルゴリズム・ベースのマーケティングが普及すると、“小さな人気の集中”という現象が顕著になってきました。そして、“とりあえずみんなと同じ”場合の“みんな”の大きさが、20世紀と比べて小さくなりました」(久保田氏)
「アルゴリズムによる嗜好の小さな一致」では、好みが自然に収束しているというよりは、「今、世の中で人気だ」といわれているものに自分を合わせる傾向がある。
「だから、アルゴリズムやメディアの働きかけによる、『好みを一致させる力』が弱まると、次第に集まりは消えていきます。外部によって誘導された嗜好は、必ずしも長続きしないのではないか、と思っています」(久保田氏)
2026年の消費の潮流、リキッド消費の対象が「子ども」に
対談パートでは、「SNSで『比較される自己』をどう演出するかと、アイデンティティの外注化」について語られた。
SNSを日常的に利用する廣瀬氏は、物理的な身体ではなく写真・動画やSNS投稿でのデータで形成された自己こそが自分自身であると、捉えることもあるそうだ。
本来、自分自身を客観的に把握することは困難だが、SNSの普及により「切り取られた自己」が可視化されることになった。その結果、人は自己完結する喜びよりも、他者と自分を比べる「比較による幸福」を強く求めるようになっているのかもしれないと久保田氏は指摘する。
この「他者からどう見られたいか」という欲求は、現代の消費行動にも顕著に表れている。廣瀬氏は、自身を演出する小道具として、商品やサービスを利用する「プロップス消費」が台頭していると指摘する。廣瀬氏によれば、「映え」を意識した消費である「ナイトプール」や「アフタヌーンティー」の流行がその典型だという。
「手っ取り早く他者と比較でき、自分の価値を証明できるわかりやすいアイテムをお金で買う、つまりアイデンティティの『外注化(市場への依存)』が進んでいるのが現代の大きな潮流ではないでしょうか」と久保田氏は指摘する。
この流れを受け、2026年の消費を示すキーワードとして示されたのは「映え2世」。廣瀬氏が「インスタ映え」から造語した言葉だ。
「『インスタ映え』は、2017年のユーキャン新語・流行語大賞年間大賞を獲得した言葉です。当時、Instagramを通じて自己演出するようになった世代が、今や親となり、子どもをプロップスのように扱い、自己演出の対象としています。たとえば、3COINSや100円ショップ、しまむら系列から、映えを意識した商品を積極的に出している印象があります」(廣瀬氏)
「映えを意識して子どもを演出すること自体が、親のセルフブランディングを支える消費領域として拡大しているのです。今後、より子どもをリキッド消費の対象とする傾向は強まるのではないでしょうか」(廣瀬氏)
久保田氏もこれに同意しつつ、もう一つの潮流を加えた。
「エンターテインメントも同様に対象となると思います。エンタメは自分自身の成長や努力がなくても、誰でもその瞬間に楽しめる。アイドルを典型とするエンタメが、今後ますますリキッド的に消費されていくのではないでしょうか」(久保田氏)
