国内でも存在感を高めるグローバルブランド「SHISEIDO」
──はじめに、ブランドについての簡単な紹介をお願いします。
山本(資生堂):「SHISEIDO」は、1872年東京銀座創業の資生堂の遺伝子を継承するグローバルフラッグシップブランドです。コンセプトは「アート&サイエンス」。感性の領域と科学技術による最先端の効果・効能を掛け合わせた商品を展開しています。
山本(資生堂):近年、資生堂の成長を牽引するコアブランド3つの1つに選定され、国内でも2年連続で2桁の伸長率を維持するなどシェアを大きく伸ばしています。日本市場では3つの柱を軸にコミュニケーションに注力しています。
1つ目がスキンケアです。「アルティミューン」「オイデルミン」「モイスチャライザー」の3アイテムによるスキンケアをエントリーのステップとして提案し、サイエンスの観点からの訴求を強めながらリピーター顧客の定着を重点施策としています。
2つ目はベースメイク。リキッドファンデーションが2024年に大きな反響を呼び、「このファンデーションで『SHISEIDO』を初めて知った」という新規顧客との接点を大幅に拡大しました。
3つ目が最高峰ラグジュアリーライン「フューチャーソリューション LX」で、日本美を体現するパッケージにより国内外の利用者を着実に増やしています。
なぜ今、CRMが重要か?「嫌われないコミュニケーション」
──情報が溢れる現代において、CRMの重要性はどのように変化していると感じますか?
山本(資生堂):生活者は自分の興味のある情報だけを選んで消費できるようになっており、的外れなコミュニケーションを続けると、離脱にとどまらずブロックされて二度と接点を持てない状況に陥るリスクがあります。一律の情報発信はもはや成り立ちません。
柴田(TimeTechnologies):新規顧客獲得中心のモデルは限界を迎えつつあります。AI検索によるサイトへの流入減少、プライバシー規制によるリターゲティングの制約など従来型手法が効きづらくなる中、CRMを「売上とお客様との関係性を支える基盤」として捉える企業が増えています。初回購入後もその方に合った情報を届け続けなければ、商品の良さは忘れられてしまいます。
廣田(資生堂):LINEは既に多くの方の生活インフラとなっており、自社アプリと比べてもお客様とのつながりを確保するツールとして最適です。会員証提示やポイント確認ができるリッチメニューは、お客様が能動的に情報を取りに来る「ブックマーク的な機能」として位置づけており、会員証・ポイント残高・新商品情報を集約することで毎月相当数のクリックを獲得しています。
廣田(資生堂):メッセージ配信と異なり、タイムリーなプロモーションを常時表示させることができる点が強みです。コミュニケーションの中身は、企業側が伝えたい情報を一方的に発信するのではなく、「こういう情報が欲しかった」とお客様に感じていただけることを第一に考えています。
F2転換率アップの鍵は、パーソナライズ配信にあり
──LINE公式アカウント運用において重要視しているKPIと、具体的なコミュニケーション設計を教えてください。
廣田(資生堂):購入後1年以内でのF値の引き上げを重視しています。F1にとどまったお客様とF2へ引き上がったお客様では翌年の継続率が倍近く異なり、継続年数が伸びるほどその差はさらに広がります。CRMの最大のミッションは、せっかく出会ってくださったお客様に「もう一度」と思っていただくことです。
具体的には、購買データと定性データを掛け合わせたパーソナライズ配信に取り組んでいます。たとえば美容液の「アルティミューン」は、30ml・50ml・75mlの容量ごとに、購入15日後の配信内容を変えています。
30mlの場合は、ちょうど半分程度を使い効果を見極める「見定め」の時期にあたるため、正しい使用量や方法を伝えることで確かな肌実感へとつなげています 。一方で、75mlの場合は「走り出し」の時期であるため、関連商品の紹介や改めての機能訴求によって、ブランド体験の満足度が高まる設計にしています 。
また、店頭カウンセリングで得られた肌悩みや理想の肌イメージといった定性情報もデータ化。同じ「アルティミューン」の購入者でも、「乾燥を改善したい」方と「毛穴が気になる」方ではコミュニケーションを出し分け、それぞれの悩みに商品がどう応えられるかを伝えることでリピートへとつなげています。
MAによる自動配信とアドホック配信を使い分け、クロスセルの機会にはベストコスメ受賞のニュース性なども絡めながらアプローチしています。こうした施策を支えるのが「Ligla(リグラ)」です。
資生堂が実感する、Liglaの魅力
──「Ligla」の特徴と、資生堂様での活用実績を教えてください。
大沢(TimeTechnologies):「Ligla」は、LINEに特化したマーケティングオートメーションツールです。AIが顧客行動を自動分析し、パーソナライズされた配信を実現、成果につなげます。顧客のお肌の悩みやサイト上のアンケート、購買情報など、詳細なデータを丁寧に設計・蓄積されている企業様ほど、「Ligla」をうまく活用されています。
「Ligla」の特徴として、PDCAの回しやすさが挙げられます。配信直後には結果を確認できるため、成長の早い企業様ほどスピーディーに改善を重ねていただいています。また、スタンプラリーなどのオプション機能も、ミニマムな準備ですぐに始められます。
廣田(資生堂):選定理由は主に3点です。まず、メッセージ単位で開封・クリック・購入までのデータを取得できる計測機能の充実。次に、多彩なビジュアル表現が選べるデザインフォーマットの豊富さ。そして、チャネルをまたいだ顧客行動を一元把握できるシームレスなID連携機能です。
成果として特に大きかったのが、店頭で入力した定性データをCRMに落とし込んだパーソナライズ配信です。送付メッセージの肌悩みに即した出し分け有無を比較すると、クリック率に1〜2ポイントの差が生まれました。1桁パーセント台のクリック率において、この差は非常に大きくパーソナライズの効果を実証できています。
さらに、Webサイトの閲覧データを活用した自動配信も効果的です。商品を閲覧していたお客様や、商品をカート投入したお客様へのリマインド配信は、自分のアクションに紐づくメッセージのためクリック率が高く、パーソナライズ配信の強みを如実に示しています。また、ブランドイベントではLINEの自動応答機能を活用して会場内で肌問診を実施するなど、LINEならではの双方向性を活かした体験設計も行っています。
大沢(TimeTechnologies):資生堂様は友だちの約7割という非常に高いID連携率を実現されており、店舗での購買実績をLINEに反映し、LINEからの配信効果を再来店につなげ店舗に還元する好循環が生まれています。
接点は増やすが、押しつけない。顧客起点のOMO
柴田(TimeTechnologies):資生堂様のID連携率の高さは、OMOの推進にもつながっていますよね。店舗でのコミュニケーションとLINEを連携させることに苦労されている企業様は多いものですが、連携のポイントはありますか?
山本(資生堂):基本的にチャネル間の強制的な誘導はしていません。購買の選択はお客様に委ねながら、クロスセルや継続利用の気持ちのトリガーをいかに押すかにフォーカスしています。
たとえばサンプル提供では、Webから送付するケースと店舗で受け取るケースの両方があり、タッチポイントに合わせた引き上げコミュニケーションを取っています。たとえば店舗でサンプルを受け取ったお客様に対しては、「肌測定でご自身の変化を数値で確認できます」「プロのアドバイザーに相談できます」と再来店を案内するなど、徹底的に顧客起点で設計しています。
「サンプルはいかがでしたか」と後日フォローするだけでも、購入への転換率は大きく上がります。2024〜25年にかけてベースメイクで出会った新規顧客をスキンケアへクロスセルするこの手法で、実際にクロスセル転換率が数ポイント上昇しました。母数が大きいベースメイク購入者の数ポイントは、スキンケアユーザー数として換算すると相当な規模になります。
──LINEを活用したCRMで成果を出せる企業の共通点はどこにありますか?
大沢(TimeTechnologies):LINEを「広告媒体」ではなく「ユーザーとのコミュニケーション基盤」として活用しているかどうかが分かれ目です。データを定量化してLINEに活かし、PDCAを素早く回す。この2点ができている企業様ほど確実に成長につながっています。
廣田(資生堂):セグメントごとに「この情報は本当にこのお客様に合っているか」を常に問い直す姿勢を持ち続けることが、最も難しく最も重要だと実感しています。
山本(資生堂):「どう顧客と向き合うのか」を社内全体で共有できているかどうかが大きな差になります。店頭スタッフも含め各タッチポイントが同じ方向を向いているからこそ、データが循環しコミュニケーションが深化する。やるべきことが決まったら、組織一丸でやり抜くことがポイントです。
AIがもたらす「未来の接客」と、揺るがないブランドの信念
──最後に、今後の展望をお聞かせください。
廣田(資生堂):パーソナライズ化をさらに追求していく上で、今後目指したいのが「潜在ニーズの把握」です。お客様自身もまだ気づいていないような潜在的な肌悩みや関心までを、汲み取ったコミュニケーションを実現したいです。
山本(資生堂):時代が変わっても、ファンを増やし関係を深めるCRMの本質は不変だと信じています。一方で、AIの普及により既存の手法が通用しなくなる可能性もあるため、常にアンテナを張り、変化へ柔軟に適応し続けていきたいです。
柴田(TimeTechnologies):AIエージェントにより、「今何を案内すべきか」という高度な判断が可能になるでしょう。さらにLINEならではの双方向性も進化し、会話・アンケート・診断・チャットといった取り組みが発展することで、定性的な情報も含めたより豊かなコミュニケーションが可能になっていくと考えています。
大沢(TimeTechnologies):CRMの多様化が進む中で、企業様が活用したいデータも増えています。そうした状況に寄り添いながら、「実施したい施策」「活用したいデータ」「実現したい未来」をしっかり汲み取り、LINEでどう実現できるかをバックアップできるよう、TimeTechnologiesとしてツールの運用体制を継続してレベルアップしていきたいです。

