買い手の検討は、もう売り手に会う前に終わっている
セッションの冒頭、モデレーターを務めたMarkeZine編集部は、こんな問いを会場に投げかけた。「自社や自社製品を生成AIで検索したとき、どう語られているかを把握できているか」と。会場で手が挙がったのはごく一部だった。
「本格的にAEOへ対応できている企業は、まだごく一部に留まっているというのが実感です」と土井氏は語る。海外の状況を尋ねられることも多いが、日本だけが特別に遅れているわけではなく、米国や欧州でも事情は大きくは変わらないのだという。
一方で、買い手側の変化は着実に進んでいる。HubSpotが2026年に発表した調査によれば、商品やサービスを購入する際に参考にする情報源として「インターネット検索」を挙げた人の割合は、前回調査の57.7%から51.3%へと減少した。対して「生成AIから得られた情報」を挙げた人は4.3%から11.7%へと、約2.7倍に増えている。
さらに別の調査では、買い手が売り手に接触する段階で、すでに複数候補をリストアップしている、あるいはそれ以降の検討段階まで進んでいる人が63.5%にのぼることもわかった。
土井氏はこの変化を「見えない機会損失」と表現する。
「売り手と接触する前に、その企業のサイトを一度も見ないまま、生成AIとの一問一答だけで候補から外れてしまうケースが起きています」(土井氏)
実際、HubSpot自身もこの変化の影響を大きく受けた。2024年、グローバルで運用していたウェブサイトのトラフィックが一時80%近く落ち込んだという。検索順位は下がっていないのに、なぜか流入が減っている。営業がフォローアップの電話をかけると、すでに競合比較が済んだ状態でフォームが送信されている。そうした変化を目の当たりにしたと土井氏は振り返る。
AEOに取り組まないことのリスクとして、土井氏は次の3つを挙げる。
- AIが提示する「候補」に入らず、比較の土俵にすら上がれない
- 本来は競争優位があるカテゴリでも、その強みが認識されない
- 比較の観点そのものを競合に握られてしまう
注目すべきはリスクのみではない。AI経由で自社と接点を持ったリードは、カスタマージャーニーの後半に進むにつれて、コンバージョン率が上がっていく傾向があるという。すでにAIとの壁打ちを終えた状態で流入してきているぶん、それ以外のチャネルからくる人より検討度合いが高い状態だからだ。そのため、手探りだとしても、AEOに着手する価値があるというのが土井氏の考えだ。
SEOとAEOでは、指標もゴールも変わる
従来のSEOとこれからのAEOは何が違うのか。土井氏は指標・ゴール・アプローチの3点で整理する。
「相手が人であってもAIであっても、役に立つ、読みやすい、消化しやすい情報を出すという本質は変わりません」と土井氏。ただし主な指標は検索順位やトラフィックから、引用・推奨やAI経由の収益へ。ゴールはサイトへの訪問から、AI回答での表示や指名検索へ。アプローチはキーワードの網羅性から、情報の構造化へと変わる。「見つけてもらう」時代から、「選ばれ、答えの一部になる」時代へと変化しつつあるのだ。
ステップ1 まず自社の見え方を可視化する
セッションでは、HubSpot Japanが実際に取り組んできたAEOの実践が、4つのステップに分けて解説された。
「AEOには、これをやれば正解という明確な手順があるわけではありません。ただ、危機感の高い企業ほど、とりあえずやれることから始めがちですが、私たちの失敗も踏まえると、段階を踏んで実践していくことが大切だと感じています」(土井氏)
最初のステップは現状の可視化だ。HubSpotは自社ツール「HubSpot AEO」を使い、ChatGPTやGeminiといった主要な生成AIの中で、自社がどれだけ引用されているか、競合と比較してどれだけ存在感があるかをスコア化した。あらかじめ登録したプロンプトに対して、生成AIがどう回答するかを時系列で追跡する仕組みだという。
「たとえば『マーケティングと営業の連携を強化するにはCRMをどう使うべきか』というプロンプトに対して、選択肢の1つとしてHubSpotの名前が挙がってほしい。そうしたプロンプトを洗い出し、1つずつ表示状況を追いかけています」(土井氏)
可視化はできても、次の一手がわからないという壁にぶつかった同社。加えて、良かれと思ってやっていたことが、AEOの観点ではマイナスに働いていたケースもあったという。
「価格ページを見やすくするためにJavaScriptで表示していたのですが、それがAIにとっては読み取りづらい構造で、誤った価格情報を学習してしまっていたんです。ここは気づいてすぐに修正しました」(土井氏)
ステップ2 優先順位づけ、数百件の記事を「間引く」
可視化の次に着手したのが、優先順位づけだ。HubSpot Japanのブログには当時、数百件規模の記事が蓄積されていた。しかし、関連トピックの記事が大量にあると、AIから見て、結局何が専門の会社なのかわからなくなってしまうという。
そこでHubSpotは、既存記事を「製品との関連度」と「バイヤージャーニー上の位置づけ」という2つの軸でスコアリングした。
たとえば、「比較・選択」系の記事を0、「CRMとは何か」といったソリューション認知系の記事を1、「ハウツー」系の記事を2として優先順位をつけ、リライトする順番を決めていった。
スコアリングの結果、全体の約40%の記事を非公開にするという決断も下した。JavaScriptやeラーニングなど、自社の事業ドメインから離れたトピックの記事が対象だ。
「担当チームとしては思い入れのある記事を非公開にするのは苦しい判断でしたが、これが効いて、逆に自社の事業ドメインに近い領域への評価が増えていくのが見えてきました」(土井氏)
可視化から優先順位づけまでは、2、3ヵ月ほどの期間をかけて進めたという。地道な棚卸し作業を、専任のマーケターが担当してきた。
ステップ3 実行、AIが好むのは「構造化」された情報
優先順位が決まったら、次は実際にコンテンツを作り直す番だ。AIは構造化された情報を好むため、特にビジネス目的のコンテンツであれば、いかにわかりやすく論理立てられているかが重要になる。
具体的な打ち手として、土井氏はまずFAQセクションの追加を挙げる。
「ページ全体に重要な情報が散りばめられていると、AIはそれを毎回すべて理解した上で、何が重要かを判断しなければなりません。一問一答の形で整理しておけば、AIは自信を持ってその情報を引用・参照できるようになります」(土井氏)
もう1つが、表やグラフによる構造化だ。
箇条書きのつもりで文章の中に中黒を使ってしまったり、説明を画像の中に文字として埋め込んでしまったりすると、AIは正しく読み取れず、情報が欠けたまま学習してしまう。箇条書き機能や表を使えば、AIはもちろん、人間にとっても一目で情報がつかめる内容になる、と土井氏は語る。
あわせて、あいまいな表現を減らすことも意識しているという。
「『場合によります』のような曖昧な書き方は、できる限り条件分けをして具体的に説明するようにしています」(土井氏)
ステップ4 モニタリングと、AEOを売上につなげる設計
最後のステップがモニタリングだ。HubSpotが成果を測る指標は3つ、AIによる引用数、AI経由のトラフィック、そしてコンバージョン率だという。
施策のテコ入れ前後を比較すると、AIによる引用数とAI経由のトラフィックはそれぞれ40%増加。さらに、他のチャネルから流入したリードと比べて、AI経由で流入した相手の商談化率は約3倍高いという結果も出ている。
こうした成果が出るまでには、半年ほどの期間を要したという。日本ではまだAEOに本格的に取り組んでいる企業が少ないため、今始めれば、比較的良い形で自社の情報をAIに学習させやすいのではないかと土井氏は語る。
一方で、施策を次々に打ち替えないことも大切にしているという。
「少なくとも当社の場合、SEOによって得られていたリード数を、AEO対策だけですべて補えるほどには至っていません。しかし、そこで焦って次から次に打ち手を変えてしまうと、また状況が変わってしまいます。一度やると決めたら、一定期間は勇気を持って続け、うまくいかないとわかったら方針を変える。そのくらいの覚悟で臨んでいます」(土井氏)
もっとも、土井氏は「AEOをやって終わりではない」と強調する。表示状況が上がればゴールだと思ってしまいやすいが、大事なのはそこから売上につながるかどうかだ。セッションの最後、土井氏はこう呼びかけた。

「まずは今日使っているChatGPTやGeminiに、自社やプロダクトについて聞いてみてください。『この会社はどんな会社だと思う?』と尋ねてみることから現状把握が始められます」(土井氏)
自社が生成AIにどう語られているかを知ることから、AEOは始まる。
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