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 「海外の人にとって、日本はとても不思議な国に見えると思う。それは、僕らの文化が、客観的な部分を発展させてくる代わりに、主観的な部分を育ててきたから

 猪子氏は正義という言葉を例えとして挙げる。

 西欧における正義というのは、多分、社会における客観的な価値というものを考え、そこに基づいて作り出してきたものである。それに比べ、日本における正義は、多くの場合、個人の価値に基づいている。例えば、西欧の視点からみれば、“子連れ狼”なんて、とても一方的で、妙なものに見えるかもしれない。

 主人公・拝一刀の一連の行動などは、個人的な復讐だし、下手すればテロリストである。でも、日本人の目は、拝一刀の視点も、宿敵・柳生烈堂の視点もあり、それらの視点に、それぞれの価値を見出すことによって、作品は全体像を表し、物語は深みを増す。

 「もっとも分かりやすい例は、映画」と猪子氏。

 「ハリウッド大作の主人公は、客観的な正義を代弁している。そして悪者も客観的に悪として描かれている。でも、日本のアニメは違う。例えば、ジブリの『もののけ姫』では、もののけ姫もエボシ御前も、それぞれの正義、それぞれの価値観を持って描かれている。物語は、客観的な正義という視点からは描かれない。だから、その両方の正義、価値観に共感してしまうアシタカは、両方の妥協点を探す。それを描くことで、この映画を深みのあるものにしていると思う」

論理的にはおかしい、でも正しい

 猪子さんのいう主観的な視点は、ファミコン文化の中にも、もちろん見つけることができる。例えば、ドラクエとウルティマのマップを例にとってみよう。

 ウルティマのマップは、すべてが、いわゆる普通の航空写真みたいな手法で描かれている。一方、ドラクエは、草原などは上方からの視点で描かれているにもかかわらず、木などのオブジェクトは横からの視点で描かれている。

 「それって、とても変な感じがするでしょ。論理的にはおかしいと思う。でも、体感的には、ドラクエの方が正しい。つまり、ドラクエの描法はより主観的なんだ。僕たちは、普段の生活において、上からの視点で地面を見下ろしているし、木などは、横からの視点で見ている」

「もっとも面白い例は、スーパーマリオ。マリオはキノコを食べることで、スーパーマリオになる。そのとき、マリオは大きくなるでしょ? でも論理的に、なぜ彼が大きくなるのかを説明することはできない。彼はもともと大人なんだから、子供から大人になるわけじゃないし」

 「じゃあ、なぜ大きくなるのかというと、彼の気持ちが大きくなっているんだ、と解釈できる。つまり、気が大きくなり、自分が強くなった、という風に思っているのではないかと。一回ぐらいあたっても大丈夫だぜ、という感じで。このように、任天堂は客観的な論理を無視したけれども、変わりに主観的にそれを表現したと思う

 猪子氏は、マリオに続いて、Fゼロについても説明を続ける。

 「もし、客観的な視点で見たならば、カーブを曲がるとき、例え華麗なドリフトをしたとしても、機体は摩擦で遅くならなければならない。プレイヤーの視点、つまり機体の外からの視点でみれば、特にそれは顕著にあらわれるはず」

 「けれども、任天堂は、ここでもドライバーの主観的な気持ち、視点を表現しようとした。ドリフトをするために、ブレーキを踏み、ハンドルを回せば、窓から見える景色は、めまぐるしく回転し、まるで加速したような気持ちになる。つまり、ドリフトによる機体の加速は、主観的には、正しいとなる」

 「私は、大学で応用物理学を専攻した。そこで、とても興味深いことを学んだのは間違いない。けれども、同時に、少し後悔してもいるんだ。というのも、それらの知識は、ときどき、僕の想像力にリミットをかけてしまうことがあるから」と猪子氏は笑う。

(インタビュアー:『+N』 工藤岳)

後編では、猪子氏が説く任天堂=任天道についてさらに迫っていきます。お楽しみ。

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MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

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MarkeZine(マーケジン)
2007/03/30 18:59 https://markezine.jp/article/detail/893

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