「負け組」と「勝ち組」のボーダーライン
次に、LFWを理解し活用するための重要なポイントを述べておきます。強調したいことは、ロイヤル顧客は単純な数字の抽出から生まれてくるものではない、ということです。
マーケターの間では1990年代後半からCRMという概念が浸透し、企業ではデータベースなどのITシステム構築に大きな投資を行いました。しかし、ご存知のようにCRM導入の結果は、企業間において勝ち負けの差が極端なものになったのです。「負け組」になった企業に共通した過ちは、ロイヤル顧客の層をDBから数字的ロジックでマイニングできると思い込んだことでした…。
例えば、ある化粧品メーカーでは最終購入価格が5万円以上で年収500万円以上、しかも直近3ヵ月以内に購入のあった主婦をロイヤルカスタマー予備層と定義付け、自社の顧客DBから該当者を抽出。そこにEメールやDM、つまりプッシュ型の施策を何度か打ちました。
これはこれで、RFM分析(Recency Frequency Monetary)的に問題はありません。ただ、問題があるとすれば、その対象層は見込みも含めて全体の顧客の何パーセントにあたるか、そしてその区分は正しかったのかを正しく検証できていなかったことです。もしそれが全体の15%だとしたら、残りの85%は無視してもよい層だったのでしょうか? 答えは、もちろんNO。そこには、何かきっかけを与えれば自発的に行動を起こしてくれる大きな潜在層があるかもしれなかったからです。
しかし、残念ながら、従来のDBMはこの潜在層をすくい上げることはできませんでした。つまり、今までのCRMもDBMも、ユーザーが自らの意志で最良の行動(アクション)を起こさせるための支援をまったくしていなかったのです。もっと簡潔にいえば、ユーザーの考えを汲み取ることなく、「この人たちは買うはずだ」「こうすれば申し込むはずだ」という仮説を立て、それを盲目的に遂行していたに過ぎなかったのです。
その結果、大掛かりなシステムを作りはしたものの、一部のロイヤル顧客は動いても、全体的にビジネスとして収支を取れるほどの数値を残すことができなかった…というわけです。
前回の講座でも採り上げたパレートの法則やRFM分析、さらにPPM分析(Product Portfolio Management)などの「顧客を評価・選別する」マーケティング手法は非常に有用です。また、ABC分析(Activity Based Costing=活動基準原価計算)などを用いて、商品の販売実績から貢献度の高い顧客層をグルーピングすることも可能です。ただし、これらはロイヤル顧客を獲得することの重要さと、過去のデータから誰がロイヤル顧客であったのかを教えてはくれますが、肝心の「次のロイヤル顧客は誰か」を教えてはくれません。
つまり、誤解を恐れずに言うと、顧客を分析して「層」または「グループ」でくくるだけでは「使える」のシミュレーションにはならないということになります。
潜在顧客の意識の中に隠されたニーズを事前に汲み取り、行動に導いていく施策を打つことが、売上を向上させ「勝ち組」に加わる条件であることは言うまでもありません。やはり、消費者のインサイドをインサイトしなければ始まらないのです(シャレになっていませんね)。